昨年度は、可視光下での C-N 結合の切断による立体選択的なアルケンの官能基化反応を実現しました。この研究が示唆する「電子励起状態を利用した電子移動反応」を基軸とし、本年度は「光エネルギー」を活用して、14 族元素を含む不活性結合の活性化および 14 族官能基の導入反応の開発に取り組みました。詳細を以下に示します。
1) 可視光による 14 族元素ラジカル種の高効率な発生法。本研究では、簡便な手法で大量かつ高収率に合成可能なシラカルボン酸をシリルラジカルの前駆体として利用し、可視光による温和かつ効率的なラジカル脱炭酸反応を実現しました。本手法で生成したシリルラジカルは、様々な基質との反応が円滑に進行し、温和な条件下で高収率にて有機ケイ素化合物を与えました。さらに、脱炭酸反応によるゲルミルラジカルを生成することも見出しました。本研究成果の一部は、Angew. Chem. Int. Ed. 誌に既に報告しており、元素化学、合成化学などの分野における重要な発見として国内外から高い評価を頂き、現在国際共同研究も開始しました。
2) 可視光による触媒フリーのヒドロシリル化反応。ヒドロシランよりケイ素官能基の導入は、遷移金属触媒による反応手法は多数開発されており、化学工業にも幅広く応用されてきたものの、触媒のコスト、安定性や重金属残留などの課題も残されています。本研究では、可視光による電子励起・結合活性化手法を鍵として用い、触媒フリーのヒドロシリル化反応を見出しました。特に、従来の遷移金属触媒系では反応性が低い電子求引基を有する基質を用いる場合は、高収率にて生成物を得ることができました。現在は、反応機構解析や機能性分子創製への応用などを検討しています。
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