研究課題/領域番号 |
18K06546
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
森 修一 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助教 (00467630)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 核内受容体 / 6配位フッ化硫黄化合物 / フッ素 |
研究実績の概要 |
本研究では、ペンタフルオロスルファニル(SF5)基、テトラフルオロスルファニル(SF4)基の2つの六配位フッ化硫黄構造を生理活性分子の部分構造として応用し、その有用性を検討することを目的としている。そのひとつであるSF5基は、大きな体積、高い脂溶性と電子吸引性、熱的・化学的安定性を持つことから、近年注目を集めている官能基である。2018年度にはSF5基を合成レチノイドの脂溶性部位として応用することを検討し、炭素骨格とは異なるリガンド活性を示す化合物を得ることに成功した。 2019年度はもう1つの六配位フッ化硫黄構造であるSF4基の応用について研究を行った。SF4基は中央の硫黄原子ひとつを介して180度の角度で2つの構造要素を連結する直線リンカーとしての応用が期待されているが、合成手法の乏しさから機能性分子へと応用した例はない。本研究では、2014年にWelchらによって報告されたSF4アルキニル構造を、合成レチノイドのリンカー構造として応用した、種々化合物を設計・合成した。合成したSF4アルキニル誘導体のレチノイド活性を、HL60細胞を用いた分化誘導活性、またはレチノイン酸受容体(RAR)のレポーター遺伝子アッセイによって評価したところ、これらはRARに対してアンタゴニストとして働くことが明らかとなり、SF4基がレチノイドのリンカー構造として機能できることを示した。これはSF4基を生理活性分子へと応用した初めての例であり、生理活性分子の構造多様性拡張のための大きな成果であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は六配位フッ化硫黄構造であるSF5基、SF4基を生理活性分子の部分構造として応用し、その有用性を検討することで、医薬分子のケミカルスペースを拡張することを目的としている。 初年度である2018年度は、SF5基の応用研究を中心的に取り組み、SF5基を合成レチノイドの脂溶性部位に導入した分子を設計・合成した。これらSF5含有レチノイド誘導体は、脂溶性部位として炭素骨格を有する誘導体と同様にRAR、RXRリガンド活性を示し、SF5基がレチノイドの脂溶性部位として機能することが示された。さらに、SF5基含有RARリガンドは、既存のRARリガンドとは異なるRARサブタイプ選択性を示した。これらの結果は脂溶性官能基としてのSF5基のユニークな性質を示すものであり、SF5基の応用可能性を拡げるものである。 2019年度は上記のとおり、SF4基を合成レチノイドのリンカー構造として応用することを試みた。合成したSF4誘導体はRARに対するアンタゴニストとして機能し、SF4基のリンカー構造としての有用性が示された。これはSF4基を生理活性分子に応用した初めての例であり、医薬分子のケミカルスペース拡張に大きく寄与できる成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2020年度は、引き続きSF4誘導体の合成と生理活性分子への導入を中心に研究を進めていく。既にレチノイド誘導体のリンカー構造としてSF4基が応用できることを示し、SF4含有レチノイドがRARのアンタゴニストとして機能することを示している。本年度は、これら誘導体のアンタゴニスト活性発現機構について、受容体とのドッキングシミュレーション、X線結晶構造などを基により詳細に検討を行っていく。さらに、医薬品の部分構造としての応用可能性を評価するために、SF4誘導体の培地中、細胞中での安定性や毒性評価等の検討も行う。SF4基のレチノイドへの応用に加えて、SF4基を有する新規骨格構造創製のための反応開発についても取り組んでいく予定である。 また、これまでに得られたSF5基とSF4基の研究成果についてそれぞれ論文化し、国際誌への投稿を行う。
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