本研究では、ペンタフルオロスルファニル(SF5)基、テトラフルオロスルファニル(SF4)基の2つの六配位フッ化硫黄構造を生理活性分子の部分構造として応用し、その有用性を検証することを目的としている。 2018年度は、SF5基の応用研究を中心的に取り組み、SF5基を合成レチノイドの脂溶性部位に導入した分子を設計・合成した。これらSF5含有レチノイド誘導体は、脂溶性部位として炭素骨格を有する誘導体とは異なるレチノイン酸受容体(RAR)サブタイプ選択性を示した。これらの結果は脂溶性官能基としてのSF5基のユニークな性質を示すものであり、SF5基の応用可能性を拡げるものである。 2019年度はもう1つの六配位フッ化硫黄構造であるSF4基の応用について研究を行った。SF4基は中央の硫黄原子ひとつを介して180度の角度で2つの構造要素を連結する直線リンカーとしての応用が期待されているが、合成手法の乏しさから機能性分子へと応用した例はない。本研究では、SF4基を合成レチノイドのリンカー構造として応用した。合成したSF4含有レチノイドは、RARに対するアンタゴニストとして機能し、SF4基がレチノイドのリンカー構造として機能できることを示した。 最終年度である2020年度は、SF4基含有レチノイドのさらなる機能解析を実施した。X線結晶構造解析により、SF4基がレチノイドの疎水部位と酸性部位を直線的に連結していることを実証した。その構造を基にRARとのドッキングシミュレーションを行い、SF4基の直線構造がRARの適切な構造変化を阻害していることが示唆された。SF4基を有する生理活性分子の創製は世界初の成果であり、その特徴的な直線構造は医薬品をはじめとする生理活性分子の構造多様性の拡張に大きく貢献できると期待される。
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