研究課題/領域番号 |
18K06547
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
平野 智也 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (20396980)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光分解性保護基 / 蛍光 / 疾患治療薬 / がん / 中枢神経系 |
研究実績の概要 |
脳の高次機能の礎となる中枢神経ネットワークの解析は、生理機能解析だけでなく疾患治療においても重要となる。こうした解析に用いられてきた蛍光センサーによるバイオイメージングや、オプトジェネティクスなどの従来の手法には根源的な問題がある。そこで本研究では、光を利用する従来の手法の、根源的な問題を解決した新たな手法の開発を行う。さらに得られた成果、分子ツールを疾患治療へと展開することも目指す。 本年度は、光照射によって共有結合の切断が起こる光分解性保護基の開発を行った。特定の環境下でのみ光反応が起こる光分解性保護基は、副作用が少ない疾患治療に応用できる。我々がこれまでの研究で開発した、pHの変化に伴って蛍光がOFF-ON-OFFと変化することにより、特定のpH領域を検出する蛍光センサーの構造を基に、特定のpH領域で機能する光分解性保護基の開発を行った。その結果、pH6付近の環境選択的に機能する光分解性保護基の開発に成功した。本分子は、細胞外環境がpH6付近となる一部のがんに対して選択的に疾患治療薬を作用させる分子システムに応用できる。さらに、金属イオンの結合の有無により、光反応効率が変化する光分解性保護基の開発研究も行った。蛍光センサーと光分解性保護基の両方の母核として利用されているクマリン骨格に着目し、金属イオンの結合前後のモデルとなる化合物群を合成して、それの機能を解析した。その結果、目的とする機能を持つために必須の構造要素を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前項「研究実績の概要」に記したように、本年度は特定のpH領域にある環境選択的に機能する光分解性保護基の開発に成功した。中でも、pH6付近の環境選択的に機能する光分解性保護基は、がんに対する治療薬と組み合わせて用いることにより、副作用が少ない分子システムに応用できる。すなわち、pH 7.4付近の健常組織周辺では光照射によっても治療薬が放出されないが、pH 6付近のがん組織周辺で治療薬が光放出される分子システムである。健常組織周辺での治療薬の放出が起こらない本システムは、副作用を軽減した画期的な治療法となりえる。こうした手法の基盤となる光分解性保護基を開発できたことは、本研究課題の順調な進捗を示している。 また、金属イオンに応答する光分解性保護基を開発する上で重要な知見を得ることにも成功した。本保護基は興奮性中枢疾患治療に有用となるが、加えて、次項の「今後の研究の推進方策」に記すように、蛍光インテグレーターと呼ばれる新たな光機能性分子の開発にもつながる。こうした研究成果を生み出す端緒となる成果を得たことも、本年度の研究の重要な成果である。 さらに、天然物由来の蛍光物質の誘導体を合成することにより、新規の環境応答型蛍光物質の開発にも成功している。本分子は溶媒の極性に応じて特徴的な蛍光特性の変化を示し、その解析から光化学の基礎研究に有用となる知見が得られている。本知見は、今後の光分解性保護基の開発にも応用できる。
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今後の研究の推進方策 |
疾患組織では癌における低pH、低酸素、興奮性中枢神経疾患における高濃度の金属イオンなど、健常組織と比較して異なる環境となることが多い。今後は、開発した光分解性保護基を治療薬に導入することにより、疾患組織選択的に治療薬を光放出するシステムの構築を行う。 さらに金属イオンに応答する光分解性保護基を用いて、新たな光機能性分子である蛍光インテグレーターの開発を行う。蛍光インテグレーターとは「カルシムイオンなどの測定対象」と「光照射」とが同時に存在する条件において光反応が起こり、不可逆的な蛍光変化が起こる分子である。特定の刺激により活性化する神経細胞を検出したい場合には、蛍光インテグレーターを導入した個体に対し、刺激と光照射を同時に行う。その瞬間に活性化し、高濃度のカルシウムイオンが存在する神経細胞中で光反応が起こり、不可逆的な蛍光変化が起こる。すなわち、一過性のカルシウムイオン濃度増大後も蛍光変化が持続するため、刺激と光照射を与えた瞬間に活性化していた神経細胞を蛍光によって写真のように保存することが可能となる。そのため十分な測定時間による、広範囲かつ高分解能な解析が可能となる。これまでカルシウムイオンに応答する蛍光インテグレーターとしては、蛍光タンパク質の変異体を基に開発されたCaMPARIなどが報告されているが、遺伝子導入が必要であるという問題がある。そこで今後は、有機小分子を基盤とするインテグレーターの開発を行う。
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