脳の高次機能の礎となる中枢神経ネットワークの解析は、生理機能解析だけでなく疾患治療においても重要となる。こうした解析に用いられてきた蛍光センサーによるバイオイメージングや、オプトジェネティクスなどの従来の手法には根源的な問題がある。そこで本研究では、光を利用する従来の手法の、根源的な問題を解決した新たな手法の開発を行う。さらに得られた成果、分子ツールを疾患治療へと展開することも目指す。 本年度は、昨年度までの研究で開発した光分解性保護基に生理活性分子を導入した分子の開発を行った。具体的には、特定のpH領域で機能する光分解性保護基に、結合反応に必要な官能基を導入した誘導体をまず合成した。本分子と、抗がん活性をもつ分子として用いられているデシタビンとの結合反応を様々な条件で検討したところ、収率においては、まだ改善の余地があるものの、目的となる結合体を得ることに成功した。また、亜鉛イオンとの結合の有無で光分解反応効率が変化する光分解性保護基の開発を行った。昨年度までの研究で見出したクマリンを母核とする構造要素に対して、亜鉛イオンに対するキレーター構造であるジピコリルアミンを持つ分子をデザイン、合成した。本分子に対して、先に述べたデシタビンを導入した分子と同様の構造要素を導入した誘導体が開発できれば、亜鉛イオン存在下で蛍光物質を光放出するという、中枢神経ネットワークの解析に有用な分子の開発は可能となる。
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