研究課題
タンパク質に結合していない遊離へム(鉄-プロトポルフィリンIX(FePPIX))が様々な細胞機能の重要な調節分子であることが近年明らかになってきたが、それらの分子メカニズムはいまだに解明されていないところも多い。このような背景から、生体内の遊離ヘムの挙動を直接観察できるツールの開発が望まれているが、現在のところ遺伝子工学的手法を用いた例に限られている。本研究では、まず、超分子化学的アプローチによりヘム高親和性ピンセット型分子(人工ヘムレセプター)の設計・合成に取り組む。続いて、開発した合成分子に適切な蛍光色素を導入し、蛍光応答性人工ヘムレセプターの創製を行う。さらに、得られた知見を基盤とし細胞内ヘムの可視化を実現する蛍光プローブの開発を目指す。本年度は、研究の第一段階として、ヘム高親和性ピンセット型合成分子の開発に着手した。具体的には、ピリジン-2,6-ジカルボキサミドスペーサーの両端に認識部位として4-アミノキノリン構造を導入したピンセット型のホスト分子 1 を設計・合成した。そして、Fe(III)PPIX およびその前駆体であるプロトポルフィリンIX (PPIX)に対する1の錯体形成能をDMSO/HEPES buffer (pH 7.4) = 2:3 (v/v) 中、吸収スペクトル滴定実験により評価した。その結果、1 は、Fe(III)PPIX に対して、1:1 錯体だけでなく2:1錯体(Fe(III)PPIX:1 = 2:1)の生成も見られたが、1:1 錯体の結合定数(K)が >2×107 M-1 と安定な錯体を形成できることが分かった。一方、ヘムの前駆体であり光増感作剤として知られる PPIX に対しても 1 は、同条件下で K = 4.0×106 M-1 と比較的安定な錯体を形成した。この結果に着目し、ヒト大腸がん細胞であるHCT-116 細胞に対してPPIX の可視光照射 (530-590 nm) による細胞死誘導活性を評価したところ、PPIX 単独の場合と比べ、1 共存下で光照射による細胞死誘導活性が大きく向上した。
2: おおむね順調に進展している
DMSO/HEPES buffer (pH 7.4) = 2:3 (v/v)の条件ではあるものの、Fe(III)PPIXに対して高い親和性を持つピンセット型人工レセプター 1を見出すことができ、本年度の研究目標をおおむね達成できたと考える。加えて、光増感作用を持つPPIXが1と錯体形成することで得られる超分子型光増感剤の光線力学療法への応用の可能性についても示すことができた。
今年度見出したピンセット型分子の構造を基盤とし適切な蛍光色素を導入することで、ピンセット分子とFe(III)PPIXの水系溶媒中での錯体形成を蛍光変化として出力できる人工ヘムレセプターの開発に取り組む。生体に存在する様々な有機低分子に対する人工ヘムレセプターの選択性についても検討する。さらに、得られた知見を活かして蛍光応答性人工ヘムレセプターの構造最適化を行う予定である。
次年度開催される国際学会で本年度の成果を発表するためその費用として使用する。次年度はより多くの生物実験を行うため、実験のセットアップや高価な生物試薬の購入費用として使用する。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
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