研究課題
アミノ酸トランスポーター1 (LAT1)を標的分子とする新規抗がん剤リード化合物の創出研究として、本年度はブラシリカルジン類コア構造のより簡便な合成法の開発を検討した。これまでに展開してきた方法は、出発原料であるトランスデカリン誘導体の合成にα,β-不飽和ケトンのBirch還元条件に基づく還元的アルキル化を行っていた。立体選択性の点で信頼のおける有用な方法であるが、大量の液体アンモニアが必要とする本法において、特に大スケール合成において高収率を再現性よく実現するためには比較的高度な実験技量を持つものが実験装置組上げと反応のモニターを緻密に行う必要がある。そこで今回は、Birch還元条件を必要としないトランスデカリン骨格構築に基づくブラシリカルジン類コア構造の合成に取り組んだ。Wieland-Miescherケトンを塩基で処理した後にヨードメタンと反応させ、α,α-ジメチル-β,γ-エノンを調製し、ケトンの立体選択的還元および生じたアルコールの保護を行った後、二重結合の水素化を行うと、高い立体選択性でトランスデカリン誘導体を得ることができた。本法は変換工程数の点では課題が残るものの、学部卒業研究生レベルの実験者でも実施することができる方法である利点がある。今後は本法を活用することで大量合成につながるものと期待している。また、昨年度に引き続きブラシリカルジ類のコア骨格を単純化した類縁体の合成を検討した。昨年度モデル基質で検討したJohnson-Claisen転位を機軸とする側鎖の立体選択的導入を実際の基質で実施し、中程度の収率で所望の酢酸ユニットを導入することができた。
2: おおむね順調に進展している
ブラシリカルジン類のコア骨格単純化類縁体合成についてはアリルアルコールからのJohnson-Claisen転位が比較的良い収率で進行することを見いだした。また、Birch還元条件に基づく還元的アルキル化を回避したトランスデカリン骨格構築の経路を見いだしたことから、研究は概ね順調に進捗しているものと考えている。
引き続き、ブラシリカルジン類のコア骨格単純化類縁体の合成およびラジカル環化反応を機軸とするtrans/syn/trans-ペルヒドロフェナントレン骨格の第2世代 合成法の開発について検討を行っていく予定である。また、これらの方法で合成可能な立体化学の異なる関連誘導体の調製も随時行い、生物活性評価に必要なサンプルの供給を試みたい。
本年度行った合成法改良により、当初購入予定であった試薬よりも安価な試薬の購入ですんだため。余剰金に関しては、次年度で合成予定の誘導体の基質購入に充てる予定である。
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有機合成化学協会誌
巻: 77 ページ: 553-565
10.5059/yukigoseikyokaishi.77.553