研究課題/領域番号 |
18K06561
|
研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
齋藤 直樹 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (80142545)
|
研究分担者 |
木村 真也 明治薬科大学, 薬学部, 助手 (10632739)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 海洋天然物 / 光反応 / 1,3-ジオキソール / 1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン / 抗腫瘍活性 / サフラマイシン / レニエラマイシン / 全合成 |
研究実績の概要 |
申請者が発見したメトキシ-p-キノンの光照射による新規化学変換反応に着目し、本反応の基質一般性、至適反応条件の選定、及び反応機構の解明に向けた化学的研究を展開します。さらに、本光反応を抗腫瘍活性イソキノリン天然物の化学変換と付随する様々な誘導体合成、並びに構造活性相関研究の新たな展開に繋げます。また、カリブ海の群体ホヤの極微量二次代謝産物として見出され、悪性軟部腫瘍に対する新規医薬品として上市されたトラベクテジンの全合成経路の鍵工程に本光反応を組み入れた革新的全合成経路を立案・実践します。なお、この研究を展開する際に入手可能となる多種多様な化合物群についてヒトがん細胞株(HCT116, DU145)に対する殺細胞活性を指標とする生物活性評価と構造活性相関解析を展開し、新規制がん剤の開発候補化合物を選定します。研究実績の概要について以下に示しました。 ① 三環系7-メトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンに対する光変換反応の至適反応条件の探究と基質一般性の追究:国内学会発表(2件),海外学会発表(1件);② 三環系6-メトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリンに対する光変換反応:国内学会発表(1件)、学術論文の掲載(1件);③ 抗腫瘍活性抗生物質サフラマイシンAの全合成:国内学会発表(1件)、学術論文の掲載(1件);④ ナフトキノン、キノリンキノン、及びインドールキノンに対する光照射とその挙動:国内学会(1件);⑤ 生物活性天然物及びその誘導体の構造活性相関解析研究:国内学会発表(2件)、など。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗腫瘍活性イソキノリン海洋天然物に含まれる特異な構造単位である1,3-ジオキソールの生成機構に着目し、我々が見出したメトキシ-p-キノンに対する光変換反応に関する化学的研究を展開しました。初年度の進捗状況について以下にまとめます。 ① 標的天然物の基本単位である7-methoxy-1,2,3,4-tetrahydroisoquinoline-5,8-dioneを含む三環系モデル化合物について、溶媒、基質濃度、温度、光源波長などの条件を追究したところ、希釈条件、室温、塩化メチレン、蛍光灯ランプを用いた場合に高変換率で反応が進行することを明らかにしました。また、本反応は1位の置換基の種類にほとんど影響を受けないもの1,3-位立体配置がcis-の場合に副生成物を生じる傾向があることを見出しました。② 様々な1,2,3-4-tetrahydroisoquinoline-5,8-dione類縁化合物を合成し、本光反応の適用範囲について検討した。本年度は特に6-methoxy-1,2,3,4-tetrahyroisoquinoline-5,8-dioneについて研究成果をまとめ、学術雑誌に報告できました。③ 本光反応のサフラマイシンA (SFA)への適用をめざし、本年度は新たな合成戦略によるSFAの全合成にチャレンジし、その目的を達成しました。④ 合成研究を展開する過程で得られた様々な合成品について、ヒトがん細胞に対する殺細胞活性(IC50)を指標とする生物活性を検定し、構造活性相関に関する新たな情報を見出しました。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度の研究成果を踏まえて、以下に示す研究を中心としてさらに展開します。 ① 光変換反応における至適条件について、高希釈条件では大量スケールでの実施が困難であることから、光源の強さと照射する光波長についてさらに追究します。② 本変換反応はおそらくラジカル機構で進行していると推定しています。そこで、その根拠となる実験系の構築を経て、本反応の機構を解明します。③ 天然物の五環系基本骨格の両末端に1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-5,8-ジオンが存在しています。ところが、これまでの予備実験では、左端末端を含む三環系モデルに比較して、右端末端を含む三環系モデルの光照射は全く進行しないことがわかりました。さらに継続して研究を展開し、本反応の基質特異性について追究していきます。④ キノリンやインドールなどの含窒素複素環化合物に対する光変換を検討し、基質一般性につッいて追究します。⑤ 前年度の各種化合物の生物活性試験結果を詳細に解析し、新しい制がん剤の開発候補化合物を選定し、動物実験の実施に向けた合成経路のブラッシュアップを経てプロセスリサーチの推進を図ります。⑥ ごく最近、中国の研究グループが本光反応に関する論文を発表しました [He W.; Zhang Z.; Ma D., Angew. Chem. Int. Ed., 131 (12), 4012-4015 (2019)]。世界の第一線で益々注目を集める本研究課題について、これまでの研究成果を本年度内に積極的に学術論文として投稿する予定です。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度(2018年度)の研究成果発表は国内のみに限定、その費用を他の学内外研究補助金で賄うことができました。結果的に発生した余剰金とともに2019年度に海外で開催される国際会議で発表することとします。また、いくつかの学術雑誌を介する研究成果の公表を経過記しており、そのために発生する英文校閲などの費用を次年度に廻すことにしました。
|