芳香環をジエンとして直接利用する脱芳香族的Diels-Alder(以下DA)反応は、架橋多環式化合物を合成する上で魅力的な手法である。しかし、芳香環が有する高い芳香族安定化エネルギーを乗り越える脱芳香族的反応は一般的に難しいため、ジエンとして利用可能な芳香環や求ジエン体に使用できるアルキンは高反応性のものに限られている。反応性が高くないナフタレンやチオフェンをジエンとして用いる不活性アルキンとの分子内DA反応に限っては数例しか報告例がなく、収率の低さや基質適用例の少なさ、過酷な条件(高温高圧)を要する等のいずれかの課題が未解決となっており、系統的な研究は未だになされていない。私は、これまで先例のない、ナフトールをジエンとして直接利用する脱芳香族的DA反応が「適切な基質」を設計すれば不活性アルキンとの間でも首尾よく進行することを偶然発見した。そこで今回、「適切な基質」の骨組みをもとに、低反応性芳香環と不活性アルキンとのDA反応の一般性解明を目指して鋭意検討し、以下の2点について成果を上げた。 (1)メトキシナフタレンをジエンとして直接利用する脱芳香族的DA反応を世界に先駆けて開発した。さらに反応条件を変えることで、後につづくタンデム反応(脱メチル化反応もしくは逆DA反応)の切り替えが可能であることも見出した(日本薬学会第140年会 26P-pm015S)。 (2)チオフェンをジエンとして直接利用する脱芳香族的DA反応/脱硫反応のタンデム反応を開発した。本反応では自発的に脱離したチオフェン由来の硫黄が副反応を引き起こすため、脱硫剤としてホスフィン類を添加することが重要であることを明らかにした(日本薬学会第141年会 27P01-325S)。
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