昨年度までに組換え緑膿菌MurDの酵素反応において生じるADP量を指標にしたスクリーニングで複数の阻害候補化合物を得ていたが、これらについて濃度依存性試験および各コンポーネントを除いたカウンターアッセイを実施した。得られたヒット化合物について類縁体検索と構造展開を進めたところ、大腸菌および緑膿菌いずれのMurDに対しても数μMの阻害活性を示す複数の化合物を見出した。この中には既報の化合物も含まれており、本スクリーニングが妥当であったことが示唆される。有望なヒット化合物は、これまでに報告されている大腸菌MurDに対する阻害剤と比べても優位に高い活性を示した。上記化合物について約100mgを合成し、緑膿菌MurDとの共結晶化スクリーニングを試行したが最終年度内に回折実験可能な結晶は得られなかった。また、酵素アッセイにおける溶液のpHでは化合物自体のNMRシグナルが悪かったため、今後化合物の安定性を上げる等の検討が必要と考えられる。一方、MDシミュレーションについてはopen formの構造を用いたMD計算の条件を変えて実施した。IC50が小さい値の化合物ほど結合状態は安定化していることが示唆されたが、cavityが非常に大きいため化合物とのdocking formが正しいものであるかは更に検証が必要である。open-closed formの遷移は数百マイクロ秒のゆっくりとした動きであったため、シミュレーションの時間が十分でなく、系が不安定であった可能性も考えられる。
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