本研究では理論計算で明らかにした反応経路をもとに、金触媒を用いた環化反応で得られる不安定な金中間体を、プロトン源による安定化を鍵として合成困難な高機能性分子の創製と触媒的分子変換反応の開発を目指しました。さらに生理活性を有する多環状エーテル天然物の骨格構築に利用展開することで高効率短段階の合成を目指しました。 (1) 蛍光特性を有する芳香族複素環化合物の短段階合成では前年度までに最適条件を確立したことから、本年度は論文化を目指し基質適用範囲の検討とデータ収集を中心に行いました。また、前年度で判明した副反応について理論計算を用いた詳細な反応機構の解明を進め、その反応機構の一部を明らかにしました。現在理論、実験の両輪で条件検討を進め、共通の基質からそれぞれの分子骨格を高い選択性で構築することを目指しています。さらに量子力学計算で新規骨格の候補分子を設計し、金触媒を用いた短段階合成を進めています。(2) 多環式複雑天然物ゴニオドミン A の合成研究では金触媒を用いた環化反応を基盤に検討を進め、合成の短段階効率化を目指しました。求核部位は合成効率の観点からこれまで報告されていない低求核性種であるモノエステルを用いて、金触媒反応と共存できる活性化条件の検討を行いました。現在収率や選択性に改善の余地は残っており、引き続き検討を進める予定です。また、すでに確立している合成経路を用いて全合成研究も同時並行で進めています。
|