当グループが開発した合成レチノイドAm80(一般名:タミバロテン)は、難治性及び再発の急性前骨髄球性白血病(APL)治療薬であり、核内受容体レチノイン酸受容体(RAR: Retinoic acid receptors)RARα/β選択的アゴニストである。これまでに、がん細胞においては分子ターゲットである核内受容体自体が抑制されていることが多く、このことが一因で十分な治療効果を示さないケースが報告されている。 このような現状を背景に、申請者はこれまでにがん細胞で抑制されている転写活性を回復させる試みとしてヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤を用い、それら阻害剤とAm80を併用することでAPL以外の疾患への適用拡大を検討した。この一連の研究において、我々は幾つかのがん細胞でエピジェネティックな変化によりRARαの発現が抑制されている点に着目し、エピジェネティック阻害剤を用いることで、がん細胞でサイレンシングされた核内受容体の発現を回復させることを検討した。 本年度はRARの核移行制御について、具体的には、ClassIIbに属するヒストン脱アセチル化酵素を阻害する阻害剤との併用が有効であることを明らかにした。この結果より、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるSAHAおよびKD5170によってClassIIbのHDAC6のターゲットの一つであるHSP90はアセチル化が亢進し、本来であればRARαのシャペロンとして親和性を示しているHSP90はRARαと解離し、その結果として核移行を制御していることが示唆された。
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