研究課題/領域番号 |
18K06575
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
古山 浩子 岐阜大学, 工学部, 准教授 (50402160)
|
研究分担者 |
木村 泰之 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 認知症先進医療開発センター, 室長 (20423171)
石井 英樹 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 標識薬剤開発部, 主任研究員(任常) (80425610)
鈴木 正昭 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 認知症先進医療開発センター, 研究員 (90093046)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 核内受容体 / 非環式レチノイド(4,5-ジデヒドロGGA) / 高速クロスカップリング / 11C標識 / PETイメージング / 高い血液脳関門透過性 |
研究実績の概要 |
核内受容体リガンドである全-trans-レチノイン酸(ATRA)は,未だ根治治療薬のないアルツハイマー病に対して改善効果が報告され,大きな注目を集めている。最適治療薬の創出に直結する高い脳内移行性を有するPETプローブの実現をめざし,構造化学的に光,金属触媒などに不安定なATRAの代わりにその共役系を短縮した非環式レチノイド(4,5-didehydro GGA)に着目した。まず,4,5-didehydro GGAの構造を基本としたエステルプロドラッグを設計し,パラジウム0価錯体を介する高速C-[11C]メチル化反応の適用を念頭に,ホーナー・ワズワース・エモンス反応によるオレフィン合成を機軸として11C標識用スズ化合物前駆体を合成した。このスズ化合物を用いて11C標識ヨウ化メチルの使用のもと高速C-[11C]メチル化反応によりエステルプロドラッグの11C標識化を実現した。ラット脳への移行性をPETイメージングにより評価したところ,投与後10分以上の時間差を経て脳内に移行することを見いだした。サルではこの脳内移行がより強調された。この特異な脳内移行現象をもとに,脳移行の本体が血中での加水分解で生じるカルボン酸ではないかと想定し,実際に上記11C標識エステル体を加水分解して11C標識カルボン酸体を合成し,ラットおよびサルに投与したところ,いずれもエステル体が示した時間差が見られず,投与直後から始まる高い脳移行性が示された。続けて,脳内移行機構を探るため血中および脳内の代謝物解析を試みたところ,11C標識カルボン酸体は血中ですみやかにより極性の高い化合物に代謝され,脳内でも同じ極性化合物が確認された。当該研究課題は当初の計画以上に進行し,新規代謝物が関わる11C標識4,5-didehydro GGAの血液脳関門透過機構の解析を新たな課題として加えることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,化学的に安定で安定供給が可能な4,5-ジデヒドロGGA による高い脳透過性を賦活したPETプローブの創製を目的としている。まず,多量に入手できる天然有機化合物ファルネソールを出発原料として導いたホスホン酸誘導体と独自に設計したトリブチルスズ置換アルデヒドユニットとをホーナー・ワズワース・エモンス反応によりE型立体選択的に結合し,ベンジル基でカルボキシル基を保護した11C標識用スズ前駆体を短行程で合成した。続いて,このスズ化合物を用いて,放射性[11C]ヨウ化メチル使用のもと,高速クロスカップリング反応により11C標識4,5-didehydro GGAのベンジルエステルプロドラッグを二重結合の異性化もなく立体特異的に合成した。加えて,強塩基性条件下でのエステルの加水分解と組み合わせて,望む11C標識4,5-didehydro GGAの合成を達成した。HPLC分取後,高い総放射能量かつ高純度なPET製剤として11C標識4,5-didehydro GGAが調整された。11C標識エステルプロドラッグを用いたラットおよびサル用PETカメラの使用によるPETイメージングにより,投与後に時間差を経て脳内に移行することが確認された。一方,活性本体である11C標識カルボン酸体には高い脳内移行性と脳全体への明確な集積が観測された。続いて,11C標識カルボン酸体の脳内移行のメカニズムを探るため,血中および脳内の代謝物解析を試みたところ,血中では,数分以内に出発標識体に比べかなり高い極性を有する化合物に変換され,また,脳内においても同じ高極性化合物が確認された。上記の脳内移行性を示す新規化合物の発見は今後のレチノイドPETプローブ開発の展開に大きな期待が抱かれ,研究は順調に進捗していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
目的とする高い脳内移行性を示すレチノイドPETプローブの開発に向けて、 (1)前年度に見出した11C標識用スズ化合物前駆体の合成工程において収率の低かったホーナー・ワズワース・エモンス反応によるオレフィン構造形成反応の収率の向上を試みる。PETイメージング実験を推進するための十分量のカルボン酸保護標識用スズ化合物前駆体を合成する。(2)ブロッキング試験でin vivo投与するための非放射化4,5-didehydro GGAは、同じホーナー・ワズワース・エモンス反応によるオレフィン構造形成反応を機軸とし、カルボン酸メチルエステルの強塩基による脱保護と組み合わせて合成する。(3)11C標識メチルエステル体から11C標識カルボン酸への加水分解反応が強塩基、加熱条件でも十分に進行しないため、短時間で効率よく脱保護が進行するように反応条件を最適化する。(4)11C標識4,5-didehydro GGAの脳内移行機構を解明するために,(4-1)高極性代謝物はリン脂質のグリセロリン酸コリン誘導体であると想定し,グリセロリン酸コリンから2分子の4,5-didehydro GGAが結合したエステル体を化学的に合成する。(4-2)合成したエステル脂質のラット前投与による11C標識4,5-didehydro GGAのブロッキング試験によりエステル脂質の脳内移行性を検証する。同時に血中および脳内化合物を同定する。(4-3)非放射化4,5-didehydro GGAのラット投与による血中および脳内の高極性代謝物の化学構造を,液体クロマトグラフィー質量分析法を用い、合成したリン脂質の標品化合物と比較し,解析する。
|