研究課題
化学構造の多様性を特徴とする多環天然物骨格は、創薬ケミカルスペースをはじめとする機能性物質群における重要なモチーフのひとつである。フリーラジカル種が誘起する連続変換反応(ラジカルカスケード反応)は、こうした多環分子骨格を短工程で与える強力な手法となり得る。本研究では、低環境負荷・省エネルギー触媒プロセスからなるラジカルカスケード反応を基盤として、多環分子骨格の新たな構築法を開発するとともに、魅力的な創薬資源として注目を集める生物活性天然物の人工的創製に挑んだ。今年度においては、以下の課題1) 及び2) に関する研究を推進した。すなわち、1) 連続したラジカル種の変換を基軸とする多環分子骨格構築手法の開発と、その活用による抗ウイルス活性海洋産天然物 hamigeran B の全合成、2) 触媒的連続ラジカル環化を鍵とするホスファチジルイノシトール3-キナーゼα(PI3Kα)阻害活性天然物 liphagal の全合成である。検討の結果、課題1) については、可視光redox触媒存在下にて所望の連続ラジカル反応を駆動させる条件を見出し、連続ラジカル付加-芳香族ラジカル置換反応による新規テトラリン形成法を鍵としてhamigeran Bの基本分子骨格の構築に成功した。2)に関しては、当初目的とした還元的ラジカル多環形成には至らなかったが、一電子移動を経由する新規キノンレドックス型多環構築法を開発し、本手法によるliphagal の分子骨格の構築に成功した。
2: おおむね順調に進展している
今年度の研究では、研究開始当初計画していた可視光redox触媒存在下での触媒的ラジカル付加-芳香族ラジカル置換反応による新規テトラリン形成を鍵としてhamigeran Bの骨格構築に成功するなど、概ね計画通りの成果を得ることができた。一方、PI3Kα阻害剤 liphagal の多環分子骨格の構築においては、当初計画していた方法の確立には至らなかったが、予期せぬキノンレドックス一電子移動によるベンゾフラン形成反応を新たに見出し、これによりliphagal骨格を構築する手掛かりを得ることに成功した。こうした状況に鑑みて、本研究の進展は概ね良好であるといえる。
計画した研究を遂行するうえでの著しい問題は生じていない。そのため、当初の計画における特段の変更はなく、本年度も継続して研究を推進する予定である。
本年度における研究の途上で、研究対象としていた合成手法(反応)に関する予想外の知見を得た。従って、当初の計画を若干変更し、この新知見の探索を併せて次年度実施することにしたため。化学合成に用いる各種試薬類、溶媒、精製用シリカゲル等の購入に必要な物品費並びに研究成果発表のための旅行費として使用する。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (4件) 備考 (1件)
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http://soran.cc.okayama-u.ac.jp/view?l=ja&u=d48eadf819ec805574506e4da22f6611&f1=10&sm=field&sl=ja&sp=33