毒性ガス等価体を用いる安全かつ簡便な有機合成手法の開発を目指し、3つの反応開発に取り組んだ。 一酸化炭素等価体を用いるカルボニル化を伴う新規反応の開発において、還元的カルボニル化反応における基質一般性を拡大することができた。一方、還元的カップリング反応による非対称ケトン合成法の開発では、特に遷移金属触媒および配位子について重点的に検討を行い、ある種の配位子が収率の改善に有効であることを見出した。また、光触媒を用いる反応条件でも目的のケトンが得られることを見出した。類似の条件による反応例は過去にほとんどなく、本反応がケトン類の実用的な新規合成法となる可能性を示すことができた。 二酸化硫黄等価体を用いる含硫黄化合物の新規合成法の開発では、昨年度までに二酸化硫黄等価体がSO2源ではなくS源として機能する反応を見出していた。今年度は目的物であるスルフィドの収率をさらに改善するとともに、当初はスルホンの生成が優先すると考えられていた基質からも目的のスルフィドが得られることを見出した。また、反応機構の詳細な解析を行い、当初の生成物や想定中間体であったスルホンやスルホキシドはスルフィドの生成に関与しないという重要な知見を得た。反応条件によってはスルホンが得られることから、本反応は反応条件の選択により二酸化硫黄等価体を用いて異なる酸化段階のS原子を導入する新規反応として、学術的にも極めて重要である。 一酸化炭素等価体を用いる開放系でのカルボニル化反応では、幅広い基質一般性の確認と誘導体化を行った。また、様々な反応条件において速度論的解析を行い、当初想定した作業仮説を実証する有益な知見を得ることができた。本反応は、難溶性の気体状分子である一酸化炭素が関与する開放系反応の初の例であり、従来の気体状分子が関与する気液二相反応を液相反応へと転換したという点において学術的に意義のある成果である。
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