研究課題/領域番号 |
18K06585
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
江上 寛通 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (50553848)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フッ素 / 相間移動触媒 / ケトン / C-H変換 / ラジカル |
研究実績の概要 |
2019年度は、ケトン触媒を中心に光照射下におけるC-Hフッ素化反応の条件検討を実施した。その結果、単純な脂肪族基質を用いた場合、極性溶媒中では期待通りにC-Hフッ素化が進行するものの、非極性溶媒中では全くC-Hフッ素化が進行しないことが明らかとなった。非極性溶媒に溶けないSelectfluorをフッ素化剤として用い、非極性溶媒中でのキラル相間移動触媒によるキラルなフッ素化剤の調製を不斉誘起の仕掛けとして組み込むことを考えていたことから、基質に触媒との相互作用部位を持たせるなどの様々な工夫を施したが、同様な結果を得た。 C-Hフッ素化は、1) C-H引き抜き段階と2) C-F結合形成段階に分けて考えることができる。C-Hフッ素化における不斉誘起は2段階目のC-F結合形成段階であると考えられる。そこで、想定される炭素ラジカル中間体とフッ素化剤との反応を相間移動触媒条件で検証することで、ラジカル的なフッ素化における不斉誘起が可能であるかを確認することとした。 トリエチルホウ素を用いエチルラジカルを発生させ、オレフィン基質にエチルラジカルを付加させることでベンジルラジカルを調製し、このものに相間移動触媒とSelectfluorから調製したキラルフッ素化剤とを反応させた。その結果、収率などに改善の余地は残しているものの、予期した通りに有意な不斉誘起が認められた。このことはラジカル的フッ素化における不斉反応が可能であることを示す重要な知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で記した通り、当初の予定の不斉C-Hフッ素化の開発に関しては成功していないものの、その部分要素である炭素ラジカルとキラルフッ素化剤によるC-F結合形成における不斉誘起を確認することができた。これは当初想定していた通り、キラル相間移動触媒がラジカル的フッ素化に使用できることを示す重要な知見であり、今後の検討によって未開拓なラジカル的不斉フッ素化反応を開拓する足掛かりとなると考えている。 以上のことから、未だに乗り越えるべきハードルはいくつか存在するものの、当初予期していなかった研究の広がりが期待できる結果を得た点から、概ね順調に研究が進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は2019年度に得た知見を基に、まずは炭素ラジカルと相間移動触媒とSelectfluorから調製するキラルフッ素化剤との反応を検討する。このラジカル的フッ素化においてポイントとなるのは炭素ラジカルの発生のさせ方である。すなわち、炭素ラジカルの発生速度とキラルフッ素化剤の調製速度のバランスを取ることが、本反応の成功に必要であると考えている。そこで、アルキルホウ素種やアルキルカルボン酸誘導体などを用い、光照射条件におけるラジカル発生方法を中心に検討していく。また、その基質には相間移動触媒と相互作用できうる水素結合ドナーを組み込むことを計画している。これによってラジカル的不斉フッ素化に先鞭をつける。 また、ラジカル的不斉フッ素化を達成したのち、改めてC-Hフッ素化にチャレンジする。特に1段階目のC-H引き抜き過程を非極性溶媒中でも触媒する分子の検討を丹念に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度後半に炭素ラジカルとキラルフッ素化剤の反応が不斉誘起を伴って進行することを見出したが、2019年度の前半は予想以上にC-Hフッ素化における条件検討に時間がかかったため、基質合成のための試薬を新たに購入する必要がなかった。それにより、試薬代などの使用が予定より少なくなったため、次年度使用額が生まれた。 しかし、新たな発見により02020年度は様々な基質の合成や触媒の合成が必要となると考えられ、次年度使用額分は期間中に十分に消化されるものと考える。
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