まずは2019年度に得られた知見を基に、アルキルラジカルのスチレン誘導体への付加反応により生じるベンジルラジカルと、触媒とSelectfluorにより系中で調製されるキラルフッ素化剤との反応を種々検討した。その結果、エナンチオ選択性は中程度ながらも、ラジカル反応による三成分連結型不斉フッ素化反応を初めて達成することができた。しかしながら複雑な副生成物の生成が問題となり、その収率に改善の余地があった。そこで反応系をよりシンプルにすべく、第2級アルキルボロン酸エステル誘導体から光触媒により生じる炭素ラジカルをフッ素化することを試みた。合成の容易さからβ位にアミドを持つボロン酸エステル類を中心に条件検討を行ったものの、望みのフッ素化ではなくベータ脱離を経由し生じる不飽和アミドがフッ素化されたと思われる化合物が主生成物となった。そのため現在他のラジカル前駆体を検討中である。以上の通り、C-F結合形成段階の検討については一定の成果を得ることができた。一方で、未開拓な不斉C-Hフッ素化をキラル相間移動により実現するには、非極性溶媒中での水素原子移動(HAT)反応の実現が必要となる。そのため初年度よりHAT触媒に関する検討を地道に積み重ねてきた。これまでに、ペンタセンテトロンが非極性溶媒中でもHAT触媒として働き、フッ素化反応がわずかに進行することが明らかとなった。更なる触媒検討が必要となるが、そのきっかけを得ることができた。
|