研究課題
Luminamicinは北里研究所において、Streptomyces sp. OMR-59株の培養液より嫌気性菌、特にClostridioides difficile (以下C. difficile)に選択的な抗菌活性を示す化合物として見出された。C. difficileは抗生物質による治療で腸の常在菌のバランスが崩れた際に異常に増え、偽膜性大腸炎や中毒性巨大結腸症などを引き起こすとされ、大変危険な菌として警戒を強められている。また、不完全な治療による再発などが問題となっており、既存薬に代わる新たな抗嫌気性菌薬の開発が望まれている。一方で、LuminamicinのC. difficileに対する再評価により、既存薬のバンコマイシンと同等の活性を示し、動物試験においては既存薬より優れた延命効果を示すことが明らかとなっている。以上のことからLuminamicinが新規抗嫌気性菌薬として期待できるものと考え、本研究の最終目標を新規抗感染症薬の創製に定め、まずその構造活性相関の解明を目的にLuminamicinの全合成研究に着手した。これまではマクロラクトン部である三連続不斉中心ユニットとシスデカリン部位であるアルデヒド体とのユニットカップリングユニットカップリングの条件確立が課題であった。実際に、アルデヒド体の反応点であるC-14位カルボニルに対し、C-C結合を効率的に構築可能な反応な探索を行っていたが、単純な基質の付加は進行するものの、全合成に適応可能な官能基の伸長は出来ていなかった。前年度は三連続不斉中心ユニットの金属による活性化においてt-BuLiを用い、また、アルデヒド体の求電子性が低いことから高温条件で反応性を向上させることで高収率でカップリング体を得ることに成功できた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、Luminamicinの中央部分の10員環ラクトンのエステル部分と3置換オレフィン部分で分割し、それぞれをNorthern part、Southern partとし、まず特異な構造を有する各パートの構築法の確立を行い、その手法を用いて全合成を達成する計画を立てた。これまでの研究で、Northern part ユニットとSouthern partユニットのそれぞれの骨格構築法をの確立に成功している。そのため、それらの知見を生かしたLuminamicinの全合成法確立に向け、中央部の10員環ラクトンを介して各パートの連結を行うべく、その合成に着手した。まず、Luminamicinは上部14員環を合成最終段階において既に確立した手法により合成できると考えた。即ち、Luminamicinは開環体のセコ酸 からのマクロラクトン化に続くフラン部分の段階的な酸化により無水マレイン酸含有マクロラクトンを構築することで得られ、不安定とされるエノールエーテル部分については末端アルキン位置選択的ヒドロスズ化により調製されるビニルスズエーテル体とヨウ化フランとのStille couplingにより構築できると考えた。歪んだ3置換オレフィンは10員環を構築した後に段階的なオレフィン化によりその幾何異性を制御するとした。10員環ラクトンについてはセコ酸 8のマクロラクトン化によって導くとし、その前駆体を三連続不斉中心ユニットの活性種を、Southern partのアルデヒドとカップリングをすることで合成した。三連続不斉中心ユニットの金属による活性化においてt-BuLiを用い、また、アルデヒド体の求電子性が低いことから高温条件で反応性を向上させることで高収率でカップリング体を得ることができた。
今後の推進方策として、現在は得られているNorthern part ユニットとSouthern partユニットカップリング体の量的な供給をおこなう。その後のマクロラクトン部分、無水マレイン酸部分の構築検討をおこない、Luminamicinの全合成の達成を目指す。その合成と並行して、北里研究所が有するLuminamicin生産菌と微生物発酵技術を駆使して、当研究室に保有しているJar 3基を用いて生産培地60 LでLuminamicin生産菌を培養し、グラムスケールで天然物Luminamicinを取得する。その天然物を原料として用いて、まず、全合成の後半に行う予定である無水マレイン酸部分の構築を検討するため、Luminamicinの分解反応を行い、全合成中間体と想定している化合物を調製する。その化合物を利用して、全合成の後半のルートを構築していく。すなわち、求電子性の高い無水マレイン酸はTMSCHN2を用いてジエステルへと変換し、続く水酸基の保護、14員環ラクトンの選択的開環反応によりその中間体を得る。次にエノールエーテル部位の解裂では共役したエノールエーテルに対しチオールを用いたマイケル付加を行いS,O-アセタール形成させ、生じたS,O-アセタールの加水分解によって全合成の中間体として想定している化合物を合成出来ると考えている。またこれまでに天然物から誘導した中間体の生物活性は評価中であるが、それらの結果からLuminamicinの活性に重要な部位や、類似天然物との活性と構造の相関が確認できると期待している。
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