研究課題/領域番号 |
18K06588
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
福原 潔 昭和大学, 薬学部, 教授 (70189968)
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研究分担者 |
水野 美麗 昭和大学, 薬学部, 助教 (60766195)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイドβ / カテキン / プロシアニジン |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の原因は高い凝集能と強力な神経細胞毒性を有するアミロイドβタンパク質(Aβ)であると考えられている。カテキンなどの天然の抗酸化物質はAβの凝集を阻害する。我々はカテキンの立体構造を化学修飾により平面に固定化した「平面型カテキン」が、強力な抗酸化作用とAβの凝集阻害作用を示すことを明らかにした。カテキンの重合体であるプロシアニジンは抗酸化作用や動脈硬化抑制作用を示し、その作用は重合度が増すほど強くなる。そこで本研究では、近年ADにおける認知障害の改善作用が報告されたカテキンの三量体について、構成単位のカテキンの立体構造を平面に固定化した誘導体の設計・合成を行い、Aβ凝集阻害作用、神経細胞毒性抑制作用を明らかにする。優れた作用を示した化合物については、ADモデルマウスに対する予防・治療効果を明らかにして、ADの根本的な治療薬としての有用性を評価する。 平成30年度はカテキン三量体の合成中間体であり、天然にも存在して様々な活性を示す二量体(プロシアニジンB3: Cat-Cat)とその平面固定化体(Cat-PCat, PCat-PCat)について高収率・高立体選択的な合成方法を確立した。また、合成した化合物のラジカル消去作用およびAβ凝集阻害活性を明らかにした。カテキンの二量体は単量体と比べるとラジカル消去活性が大きく増強した。二量体の環を固定化した化合物はさらに強力な活性を示した。Aβの凝集に対しても、単量体よりも二量体が強く凝集を阻害し、さらに平面に固定化することで凝集阻害活性が増強することがわかった。本研究結果はカテキン三量体の合成と活性を評価する上で有用な情報となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではAβの凝集過程に作用する新たなAD治療薬の開発を目的として、カテキンの重合体の立体構造を平面に固定化した化合物の設計・合成を行う。また、合成した化合物についてアミロイド仮説に基づく生物試験を行い、治療薬としての有用性を検討する。H30年度は、本研究で目的とするカテキン三量体の平面固定化体の合成を行うために、まず、合成中間体となる二量体(プロシアニジンB3: Cat-Cat)と、Cat-Catの一方および両方のカテキンを平面に固定化したCat-PCatとPCat-PCatの高収率・高選択的な合成方法について検討を行った。Cat-Catは一方のカテキンのC環の炭素ともう一方のA環の炭素がS配位で結合している。そこで、立体選択的に反応が進行するようにC環の反応部位に適切な脱離基を導入したカテキンをもう一つのカテキンとルイス酸で反応させることで、高選択的に二量体を合成することができた。Cat-PCatは、脱離基を導入したカテキンに平面型カテキン(PCat)を反応させて合成した。また、PCat-PCatはCat-Catに平面固定化反応を行うことで合成することができた。 これらの化合物とカテキンおよびPCatの抗酸化活性をガルビノキシルラジカルに対するラジカル消去反応について速度論的解析を行うことで検討した。その結果、ラジカル消去反応速度定数は、Cat < PCat < Cat-Cat < Cat-PCat < PCat-PCatの順で大きくなった。また、Aβの凝集に対する阻害活性をチオフラビンT法を用いて解析したところ、ラジカル消去活性と同様の順で凝集阻害活性が増強し、特にPCat-PCatは強力にAβの凝集を阻害することがわかった。 以上、ほぼ計画通り研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
1. カテキン三量体とその平面固定化体の合成 本研究で確立した二量体の合成方法を利用してカテキン三量体(Cat-Cat-Cat)とその平面固定化体の合成を行う。Cat-Cat-CatはCat-Catに脱離基を導入したカテキンを付加して合成する。カテキン三量体の平面固定化体は平面化されるカテキンの数と位置の違いで多くの異性体が考えられる。今回はその中で最も簡便に合成可能と考えられる、全てのカテキンを平面固定化した化合物(PCat-PCat-PCat)を合成する。 2. 抗酸化活性、アミロイドβ由来神経細胞毒性の阻害活性の評価 a) 抗酸化活性:活性酸素のモデル化合物に対するラジカル消去反応を用いて速度論的解析を行う。b) 凝集阻害活性:チオフラビンT法を用いて、Aβの凝集反応に対する阻害効果を明らかにする。強力な凝集阻害効果を示した化合物については,円偏光二色性スペクトルを測定して、Aβの立体構造への化合物の相互作用を解析する.c) 神経細胞毒性抑制効果: Aβは凝集の過程で活性酸素を発生して神経細胞(SH-SY5Y)にアポトーシスを誘導する。この系に化合物を添加して神経細胞毒性に対する抑制効果を評価する。 3.構造活性相関の検討と新規カテキン三量体の設計 合成した化合物について分子軌道計算を行い、最安定化構造、HOMO軌道、イオン化エネルギー、LogP等を求める。これらの物性値と生物活性との相関について検討を行い、アミロイドβ由来神経細胞毒性の阻害活性発現に必要な構造的特徴を明らかにし、これらの情報を基に新規カテキン三量体の設計を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画予定だった生物試験のうち、アミロイドβによる神経細胞毒性に対する阻害活性試験を来年度に行うことになったので、その分の費用(アミロイドβおよびアッセイキットの購入費)が残った。この実験は次年度に行う予定であり、そこで余剰分を使用する予定である。
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