研究課題
本研究では、顕微鏡法及び分光法の応用測定を用いて、非晶質ナノ粒子の構造・分子状態を精密に評価すること目的としている。本年度は、難水溶性薬物glibenclamide(GLB)及び添加剤hypromellose(HPMC)を用いて、anti-solvent法により得られる非晶質ナノ粒子について検討を行った。Anti-solvent法により2種の方法で非晶質ナノ粒子を調製した。調製法Aでは、GLBを溶解させたDMSO溶液をHPMC水溶液に対して注入し、nano-A懸濁液を得た。調製法Bでは、GLB及びHPMCを共に溶解させたDMSO溶液を蒸留水に対し注入し、nano-B懸濁液を得た。Nano-A及びnano-B懸濁液について超遠心処理を行い、得られた沈殿の凍結乾燥試料をそれぞれnano-A及びnano-Bとした。Cryo-TEM及び固体NMR測定の結果、nano-A及びnano-Bは共に平均粒子径約100 nmの非晶質ナノ粒子を形成していることが明らかとなった。STEM-EDX測定の結果より、nano-A及びnano-Bの形態はそれぞれ球形の中空粒子と非球形の中実粒子と大きく異なった。さらに、DSC測定及び溶液NMR測定の結果、得られた2種類の粒子中のGLBとHPMCの相溶性は大きく異なっており、これがナノ粒子中のGLB非晶質の保存安定性に大きく寄与していることを見出した。上記で明らかとしたナノ粒子の構造と分子状態より、各ナノ粒子の調製メカニズムについて考察した。そして、ナノ粒子形成時の溶媒粘度が得られるナノ粒子の構造及び分子状態に大きく影響することを明らかとした。これまでに非晶質ナノ粒子の構造・分子状態及びその形成メカニズムについて検討した報告は数えるのみである。本研究で得られた知見は、今後の発展が期待されている高品質の薬物非晶質ナノ粒子製剤創生の一助になると期待される。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標であった、anti-solvent法による非晶質ナノ粒子の調製及びTEM(Cryo-TEMとSTEM-EDX)及びNMRによる構造・分子状態の評価を達成できた。
来年度は、非晶質ナノ懸濁液についての検討を予定している。懸濁液中のナノ粒子の構造と分子状態をダイレクトに評価するため、本年度よりも検討が試料の調製と評価が難しくなることが予想される。調製法として湿式粉砕を用い、懸濁液中でより安定な非晶質ナノ粒子を形成する組成を選択することで、濃厚な薬物濃度の懸濁液を調製し、解析を行う予定である。
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Molecular Pharamceutics
巻: 15(4) ページ: 1587-1597
10.1021/acs.molpharmaceut.7b01122