研究課題
本研究では、非小細胞肺がん(NSCLC)の薬剤耐性に着目し、anaplastic lymphoma kinase(ALK)遺伝子変異に伴う分子標的薬剤の応答性変化をコンピューター上で高精度に予測する事を目的としている。R1年度は、ALK変異体-阻害剤複合体(180変異体×3薬剤)の分子動力学(MD)シミュレーションデータの統計解析を行い、薬剤応答性を優位に低下させる変異体群を予測した。まず、ALK野生型と各変異体のMDトラジェクトリを結合し、薬剤を構成する各々の原子に対してxyz座標を対象とした主成分分析(PCA)を行い、第一主成分(PC1)を抽出した。次に、野生型と変異体の間でPC1の平均の差・分散の比を検定し、野生型と比較して薬剤構成原子の25%以上で薬剤結合位置・揺らぎが優位に変化した変異体を薬剤耐性候補として抽出した。ALK阻害薬(crizotinib, alectinib, ceritinib)の各々に対して上記の解析を行ったところ、3種の薬剤全てに対して結合に有意な変化が見られたのは31/180変異体であった。そこで、これらの変異体群を対象に、アンサンブル型MDシミュレーション(MP-CAFEE法)によって薬剤の結合親和性(結合自由エネルギー)を算出したところ、1種の薬剤に対して結合親和性が低下したのは11変異体であり、2種の薬剤に対して結合親和性が低下したのは3変異体であった。最終的に、補酵素であるATPの結合親和性も算出する事で相対的な結合安定性を評価し、ALK変異体180種の中から薬剤耐性変異体候補を抽出した。また、上記のシミュレーション手法を活用する事で、既知のALK遺伝子変異に起因する薬剤耐性獲得の分子メカニズムを推定し、論文発表に至った。更に、標的タンパク質に対する分子標的薬応答性を精密に予測するシミュレーション手法を開発して論文発表に至った。
2: おおむね順調に進展している
H30年度は、ALKタンパク質変異体-薬剤複合体540ペア(=180種類×3薬剤)の各々に対して分子動力学シミュレーションを実施した。これらは比較的大規模な計算量であったが、、「京」コンピューター(ポスト「京」研究開発枠)を利用して並列実行する事で、全てのシミュレーションが予定通り完了している。R1年度は、これらのシミュレーションデータの統計解析を行い、薬剤の結合状態が野生型と比較して優位に異なる変異体群を抽出した。次に、これらの変異体群を対象に、アンサンブル分子動力学シミュレーション(MP-CAFEE法)により薬剤の結合自由エネルギーを計算し、薬剤応答性を優位に低下させる薬剤耐性変異体候補を抽出した。
まず、R1年度に抽出した薬剤耐性変異体候補に対する薬効を実験的に測定する。具体的には、(公財)がん研究会・がん化学療法センターの片山量平博士に支援を得る事により、予測した変異をもつEML4-ALK融合遺伝子を導入したBa/F3細胞株を使用して細胞生存率の50%阻害濃度(IC50)を測定する。次に、測定結果を分子動力学(MD)シミュレーション解析にフィードバックする事で、MDシミュレーションやシミュレーションデータの解析におけるパラメータの精密化を行い、ALKキナーゼドメインに生じたアミノ酸変異に伴う薬剤応答性変化を高精度に予測する方法論を完成させる。
(旅費)研究協力者である(公財)がん研究会・がん化学療法センターの片山量平博士との研究打ち合わせに加えて、国内・国際会議等での研究成果発表を予定している。(その他)本研究計画に関わる研究成果を学術論文として発表する事と、本科研費で購入した計算機サーバを定期的にメンテナンスする事を予定している。
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