本研究計画では、痛み受容体であるP2X4の機能抑制抗体の創製を目的としてきた。 我々は一昨年度に大腸菌から時間や手間暇のかかる巻き戻し系を使わずに、可溶性Fabを調製できる方法を確立した。さらに昨年度はアミノ酸変異を加えることにより、可溶性Fabの回収量を6倍から7倍に増やした発現系を構築し、当初の目的であるシステイン変異体を作成した。さらに作成したシステイン変異体を用いて、1)Maleimido-C3-NTA化学修飾による銅イオンの導入、2)ATP加水分解酵素との架橋修飾を行った。1)銅イオン修飾に関しては、Maleimido-C3-NTAが化学修飾したことを確認できたが、銅を加えた状態でのP2X4への結合活性上昇は確認できなかった。一方で2)ATP加水分解酵素と架橋試薬でつないだFabに関しては、ATP加水分解酵素との架橋ができたことを確認したが、細胞実験に必要な量の回収が困難であった。現在、架橋の効率を上げ、収量の増加の検討を行っている。 本年度は緊急事態宣言など、コロナ禍において実験の進行が遅れ、さらに研究代表者の異動が重なり、研究が思うように進められない時期もあったが、現在異動先でも実験室のセットアップがある程度整い、実験を進められる環境が整いつつある。一方で、可溶性Fabの収量増加に関しては生化学会で発表し、現在論文作成中である。また、本抗体のパラトープに関する論文をJournal of Biochemistryに投稿し、受理された。さらに、凝集性のある抗体L鎖の可変領域を用いて、抗体凝集におけるO型糖鎖の役割をまとめ、論文化した。本論文はInternational Journal of Biological Macromoleculesに受理された。
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