研究課題/領域番号 |
18K06601
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
坂倉 正義 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 助教 (20334336)
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研究分担者 |
三尾 和弘 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, ラボチーム長 (40470041)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シャコー・マリー・トゥース病 / NMR / PMP22 / MPZ |
研究実績の概要 |
【MPZの多量体化による膜重合メカニズムの解析】 試験管内における多重層膜形成システムの構築:MPZを発現させた酵母膜、精製したMPZを導入したリポソームをそれぞれ調製し、電子顕微鏡を用いて脂質膜の形状を観測したが、明瞭な多重層構造は観測されなかった。次に、MPZを組み込んだナノディスク(ND)を調製し、電子顕微鏡観測を行った。この結果、二量体化したND粒子が観測され、発現したMPZが膜重層化活性を有していることが示唆された。 MPZの細胞外ドメイン(MPZ-ECD)と脂質との相互作用解析: MPZ-ECDと、リン脂質を封入したNDとの結合をプルダウン法により解析した。しかし、両者の相互作用は検出されなかった。一方、MPZ-ECDの精製過程において、MPZ-ECDがアガロースと結合することが明らかとなった。アガロースはガラクトースを構成糖として含むことから、MPZ-ECDが、ミエリン中に多く存在するガラクトセレブロシドなどの糖脂質と結合する可能性が示唆された。 【膜多重層化を制御すると考えられるMPZ-ECDとPMP22の相互作用解析】 両者の相互作用機構を原子レベルで解明することを目的として、NMRを用いた相互作用解析を行った。まず、PMP22に由来するNMRシグナルを高感度で検出するため、MetおよびValのメチル基を選択的に13C標識したPMP22を、酵母発現系を用いて調製し、DDMミセル中に可溶化した状態で、NMRスペクトルを測定した。この結果、標識した計35個のメチル基のうち約25個について、シグナルの検出に成功した。次に、MPZ-ECD添加に伴うPMP22由来シグナルの変化を解析した結果、約7個のシグナルについて、シグナル強度の低下が観測された。以上の結果から、酵母により発現させたPMP22がMPZ-ECDに対する結合活性を有していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【MPZの多量体化による膜重合メカニズムの解析】 当初予定していたリポソーム膜の多重層化が観測されなかったが、この要因として、酵母による全長MPZの発現量が当初予想していた量と比較して低く、膜多重層を形成するために必要十分な量のMPZを確保できなかったことが挙げられる。今後リポソーム評価系・現段階で比較的良好な結果が得られているND評価系のいずれを用いる場合においても、MPZ収量増加の検討が必要である。
【MPZ-ECDとPMP22の相互作用解析】 NMRを用いた両者の相互作用解析については、概ね計画通りに進んだが、研究過程において克服すべき問題点が生じた。MPZ-ECDの試料調製において、大腸菌を用いて発現させたMBP融合型MPZ-ECDを酵素により切断し、MPZ-ECDを単離する過程の収率が、当初予測していたよりも大幅に低かった。この結果、NMR解析に必要な量のMPZ-ECDを確保するために、多大な培養量と酵素量が必要となり、研究の効率を低下させている。今後、MPZ-ECDの収率を上げるための検討が必要である。また、収量が低いことに付随して、MPZ-ECDの多量体化条件を明確化できていない。再現性よくMPZ-ECD多量体を構築するための実験条件の探索が必要である。PMP22については、メチル基をプローブとすることにより、膜貫通領域から、NMR情報を取得することに成功した。一方、PMP22の立体構造決定や、運動性解析を行うために必須と考えられる主鎖アミド基(NH)については、NMRシグナルが検出できていない。DDMミセル内におけるPMP22の分子内運動が、シグナルの線幅増大・感度低下を引き起こしていると考えられる。今後、PMP22をさらに安定化させる疑似膜環境の探索が必要と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
【MPZの多量体化による膜重合メカニズムの解析】MPZの疾患関連変異やPMP22が与える影響を評価可能な、膜多重層システムの構築を目指す。まず、最も主要な課題であるMPZの収量向上に取り組む。酵母によるMPZ発現プロトコールを最適化し、発現量の増加を試みる。同時に、酵母以外の発現系を用いたMPZ調製についても情報収集、検討を行う。また、リポソーム・ND調製プロトコールを再検討し、調製スケールの最小化を試みる。 【MPZ-ECDとPMP22の相互作用解析】PMP22およびMPZ-ECD上の相互作用残基の決定、およびMPZ-ECDの多量体化状態の解明を目指す。これらの相互作用解析を効率的に進めるためには、MPZ-ECDの収量増加が必要不可欠である。そこで、MPZ-ECDの大幅な収量増加を目的として、大腸菌を用いてMPZ-ECDを細胞内凝集体として発現し、変性巻き戻し法により活性体を得る調製方法の確立を試みる。 【PMP22の構造解析】PMP22の主鎖アミド基由来NMRシグナルの検出を目的として、現在用いているDDMミセル以外の疑似膜中に再構成したPMP22を調製し、NMR解析を行う。主鎖アミド基由来NMRシグナルの検出は、PMP22とMPZ-ECDとの相互作用解析において、PMP22側の検出プローブを増加させる点においても有用である。一方、DDMミセルに可溶化したPMP22については、これまでに精製プロトコールが確立され、純度の高いPMP22が得られている。そこで、精製したPMP22の結晶化についても検討を行う。
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