シャコー・マリー・トゥース病の疾患メカニズムを解明するために、ミエリン特有の膜重層構造形成に必須のタンパク質であるMPZの解析を行った。 まず、昨年度構築したリコンビナントヒト由来MPZの細胞外ドメイン(hMPZ-ECD)が膜重層化活性を有するか否かを確認するためのアッセイ系を構築した。Ni2+-NTAが付加された脂質を含むナノディスクを調製し、この表面にヒスチジンタグを介してhMPZ-ECDを結合させた。得られたhMPZ-ECD固定化ナノディスクの重合状態を基にして、膜重層化活性の有無を判定した。サイズ排除クロマトグラフィーおよび電子顕微鏡を用いた解析の結果、hMPZ-ECD固定化ナノディスクは、直線状に連結した多量体を形成することが示された。この多量体形成は、ヒスチジンタグを持たないhMPZ-ECDの添加により阻害されたことから、ナノディスクがhMPZ-ECDのホモ相互作用を介して重合していることが示された。 次に、ナノディスクの重合に重要なhMPZ-ECD間のホモ相互作用を同定するため、結晶構造において観測された3個の相互作用部位(Cis/Trans/H2H)のそれぞれにアミノ酸置換を導入し、得られた変異体のナノディスク重合能を解析した。この結果、CisおよびH2H相互作用部位へのアミノ酸置換導入に伴い、hMPZ-ECDのナノディスク重合化能が消失したが、Trans相互作用部位のアミノ酸置換は、ナノディスク重合化能に影響を与えなかった。 以上の結果から、ミエリンの膜重層構造形成においてMPZのCisおよびH2H相互作用が重要な役割を果たすことが示された。また、MPZのCisおよびH2H相互作用部位におけるシャコー・マリー・トゥース病関連アミノ酸残基置換は、これらのホモ相互作用を減弱化することにより、ミエリンの膜重層構造の形成不全を誘起することが示唆された。
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