2020年度は、肺線維症や肺がん治療を指向した肺投与型ナノ粒子製剤を構築するため、抗線維化作用や抗腫瘍作用を有するチロシンキナーゼ阻害薬を封入した脂質ナノ粒子製剤を調製し、その薬物動態と治療効果を判定した。封入する薬物は、封入効率と薬理効果の兼ね合いからニンテダニブを選択し、ナノ粒子の原料にはI型コラーゲンに高い付着性を有するPEG化リン脂質を用いた。リポソームの場合は内相を低pHとしたremote loading法を応用することで、高封入率のナノ粒子を得た。調製したニンテダニブ封入ナノ粒子をマウスに肺投与し、その肺内動態と血中濃度推移を評価したところ、いずれもニンテダニブエタンスルホン酸塩の水溶液を肺投与した場合と比較して、高い肺中濃度と低い血中濃度が得られた。この結果はニンテダニブをナノ粒子化することで、肺内における薬理効果を高めると共に、血液を介した他臓器への分布を抑制することによる全身性副作用の軽減が期待できることを示唆している。さらに、治療効果を判定するために、病態モデルマウスにニンテダニブ封入ナノ粒子を1日1回14日間繰り返し肺投与し、摘出した肺の組織薄切切片を観察した。その結果、コントロール群と比較して、病巣部の面積が縮小した。また、摘出した肺中ヒドロキシプロリン量は有意に減少した。以上の結果から、肺線維症および肺がん治療を指向したドラッグデリバリーシステムとして、ニンテダニブ封入脂質ナノ粒子の肺投与型製剤が有用であることが示された。
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