研究課題/領域番号 |
18K06604
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
徳留 嘉寛 城西大学, 薬学部, 教授 (70409390)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スフィンゴミエリン / セラミド / バリア機能 / 皮膚 / 経皮吸収 / 皮膚疾患 / アトピー性皮膚炎 |
研究実績の概要 |
スフィンゴミエリン(sphingomyelin: SM)の皮膚バリア機能に対する役割を明らかにすることを研究の目的としている。2018年度はSMS2KOマウスの皮膚バリア機能に関して検討を行った。体内から体外への水分バリア(inside to outside barrier, IOB)および体外からの体内への物質バリア(outside to inside barrier, OIB)を測定したところ、水分のIOBとOIBはSMS2KOマウスで増加(すなわち悪化)していることがわかった。一方、脂溶性化合物を用いたOIBは野生型マウスと比較してSMS2KOマウスでは差がなかった。さらに、角層を剥離した皮膚の水溶性化合物の皮膚浸透性は、SMS2KOマウスとWTマウスで差がなかった。このことから、表皮中のSMS2は角層の水溶性の化合物または水の透過バリアに関与していることが示唆される結果が得られた。次にSMS2KOマウスの角層構造に変化があることを想定し、2019年度から実施予定のSMS2KOマウス角層のFTIRをもちいた分子振動解析を前倒しして行った。その結果、通常の皮膚温度ではSMS2KOマウスとWTマウスでは差がなかったが、温度上昇によってCH2対称性、逆対称性伸縮振動シフトの大きさが異なった。このことからも、SMS2KOマウス角層はWTマウスのそれと比較し、微細構造が異なることが示唆された。 これまでに申請者は、SMS2KOマウスの表皮中スフィンゴミエリンや角層中セラミドはWTと比較し減少していることを報告してきたが、今年度は体内から体外への水分バリア、体外からの体内への物質バリアについて明らかとし、FTIR解析で角層構造変化がある可能性を示した。これらが明らかとなればアトピー性皮膚炎など皮膚疾患患者のバリア機能低下機構の一端がわかるかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スフィンゴミエリン(sphingomyelin: SM)の皮膚バリア機能に対する役割を明らかにすることを研究の目的としている。本年度はまず、本課題で利用するスフィンゴミエリン合成酵素2欠損マウス(SMS2KOマウス)の遺伝子型をPCR法で確認し、SMS2が欠損されていることを明らかとしました。このマウス(SMS2KO)の皮膚を剥離し、水溶性化合物であるフルオレセインナトリウム(水溶性化合物)の皮膚透過性を行ったところ、SMS2KOマウスの皮膚透過性はWTマウスと比べて有意に高値を示した。さらに、脂溶性化合物であるナイルレッドで同様の検討を行ったところSMS2KOマウスの皮膚透過性はWTマウスと同程度であった。角層剥離皮膚を用いて水溶性化合物の皮膚透過性を確認したところ、SMS2KOとWTマウスで差がなくなった。また、SMS2KOマウスの経表皮水分損失量は、WTと比較して有意に高値を示した。次に、皮膚表面温度である32℃の角層脂質の分子振動を全反射型FTIRで確認した。その結果、SMS2KO、WTマウスのCH2対称性伸縮振動とCH2逆対称性伸縮振動には差がなかった。さらに皮膚温度を40, 50, 60℃として測定したところ、32℃におけるCH2対称性伸縮振動数とCH2逆対称性伸縮振動数との差は、SMS2KOマウスで大きくシフトしていた。これらの結果から、SMS2KOマウス角層バリア機能はWTマウスと比較して、低下傾向にあった。皮膚透過試験の結果からバリア機能低下は水のルートが関与していることや角層の構造が関与していることが示唆された。FTIRで分子振動を確認したところ、温度変化によってSMS2KOマウス角層のCH2対称性、逆対称性伸縮振動が影響を受け易いことが示唆され、角層ラメラ構造がWTとは異なる可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
基本的なバリア機能特性が把握できたので、今後は以下のことを検討することでより詳細に明らかにしていく予定。 ① 角層中脂質の定量(LC/MS):SMS2KOマウスは皮膚または角層中スフィンゴミエリン、セラミドが減少していることを報告している。現在はTLCでの定量であったので、より高精度・高感度なLC/MSでの検討を行う予定。 ② 皮膚温度変化による水溶性・脂溶性化合物の皮膚浸透試験:SMS2KOマウスの角層脂質のCH2対称性、逆対称性伸縮振動はWTマウスと比較して温度の影響を受けやすかったので、40, 50, 60℃で水溶性・脂溶性化合物の皮膚浸透性を行う予定。温度変化によって水溶性化合物の皮膚透過性は増加することが想定される。 ③ 角層の熱分析(DSCとTG):角層中セラミド量が減少しているのであれば、角層中に保持できる水分量も減少している可能性があるので、熱分析によって確認する。 ④ 放射光X線を用いた皮膚ラメラ構造、炭化水素差充填構造の解析:放射光X線を用いた実験は、昨年度にも検討をしてきたが、解析に時間を要している。今年度は更なるデータ収集と、データ解析を行うことで、SMS2KOマウスの皮膚ラメラ構造や炭化水素差充填構造を明らかにする予定。
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次年度使用額が生じた理由 |
残金をしっかりと把握できていなかったので、常に執行額を把握し、2019年度は使用額が0になるように注意します。
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