研究課題/領域番号 |
18K06607
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
関根 嘉香 東海大学, 理学部, 教授 (50328100)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 皮膚ガス / PATM / 拡散濃度 / 嗅覚閾値 / 室内環境 / ガスクロマトグラフィー / 体臭 / 化学物質 |
研究実績の概要 |
ヒト皮膚から放散される微量生体ガス(皮膚ガス)は体臭の原因となり、他者の快・不快感に影響することがある。一方、自分の皮膚ガスによって周囲の人がアレルギー様症状を発症すると主訴する人たちが存在する。このような現象・症状はPATM(People Allergic To Me, パトム)と呼ばれ、科学的・医学的には全く未解明である。本研究の目的は、皮膚ガス分析に基づき、PATMが物理・化学的に成立するかを検証することである。 はじめにPATMを主訴する被験者18名の前腕部にパッシブ・フラックス・サンプラーを1時間設置して皮膚ガスを捕集し、ガスクロマトグラフ-質量分析計により皮膚ガス放散量を測定した。また健常者22名についても同様に皮膚ガス測定を行った。その結果、各被験者の皮膚から75種類の皮膚ガス成分が検出され、PATM被験者においてトルエン、ヒドロキシブチルトルエン、2-エチル-1-ヘキサノール、アセトアルデヒド、アセトン、ブタナール、ヘキサナールおよびエチルメルカプタンは有意に高い放散量を示した。一方、アルコール類や酢酸などは健常者よりも低い傾向であった。 次に各皮膚ガスの放散量を全身放散速度に換算し、室内濃度拡散モデルを用いてPATM被験者の周囲50cmにおける拡散濃度を推定し、嗅覚閾値との比較を行った。拡散濃度/嗅覚閾値>1の場合、その皮膚ガス成分が単独でも体臭として他者に認知される可能性がある。健常者の場合、体臭として検知されやすい成分は、オクタナール、トランス-2-ノネナール(加齢臭)、エチルメルカプタンなどであった。一方、PATM被験者はこれらに加えて、アセトアルデヒド、ブタナール、ヘキサナールなども体臭として検知されやすいと推定された。この結果は、PATM主訴者の言説を裏付けるものであり、他者から「焦げ臭い」と表現される臭気の原因になっていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の目標は、前年度に引き続きPATMを主訴する被験者を公募し、パッシブ・フラックス・サンプラー法により被験者に共通する皮膚ガス成分の特徴を明らかにすることであった。その結果、PATM被験者の皮膚ガス成分には、健常者と比較して有意に高い放散量を示すものがあること、またその中でアセトアルデヒド、ブタナール、ヘキサナール、エチルメルカプタンは他者に体臭として検知される放散レベルであることがわかった。この結果は、PATMが思い込みなどの精神的な症状ではなく、物理・化学的にも成立する可能性を強く示唆するものであった。
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今後の研究の推進方策 |
①引き続きPATM被験者を公募し、皮膚ガス成分の分析を行う。またPATM被験者の皮膚ガス組成の日内変動を調べ、発症時期と非発症時期における皮膚ガス組成の変化を検証する。 ②PATM被験者の皮膚ガス放散フラックスデータを用いて、室内環境中への拡散濃度をNear-field Far-fieldモデルあるいは数値流体解析により推定し、自身の皮膚ガスが他者の嗅覚だけでなく健康にも影響を与える可能性があるのかを検証する。 ③PATM被験者に特徴的な皮膚ガス成分の放散メカニズムについて検討し、症状の改善方法の糸口を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(B-A)は20,676円と少額であり、予定通り予算執行できている。翌年度の消耗品購入に充当したい。
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