研究課題/領域番号 |
18K06608
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
宮内 正二 東邦大学, 薬学部, 教授 (30202352)
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研究分担者 |
菊川 峰志 北海道大学, 先端生命科学研究院, 講師 (20281842)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | トランスポーター / 分子弁 / チャネル / 基質認識能力 / 輸送方向性 / モジュレーター / 起電性輸送担体 / 水素結合ネットワーク |
研究実績の概要 |
ペプチド・トリペプチドから様々な医薬品を輸送するオリゴペプチド輸送担体PEPTの基質輸送において重要な役割を果たしている分子弁に対して機能不全をもたらす脂溶性ジペプチドアナログおよび水溶性ビタミン、ニコチン酸が、PEPTをトランスポーターからチャネルへと変換することを明らかにした。また、これらモジュレーターが基質近傍部位に結合することをHis修飾試薬DEPCを用いて明らかにした。更に、このモジュレーターとPEPTとの相互作用の詳細な機構を明らかにするため、相互作用する可能性のある種々のモノカルボン酸医薬品を用いて、構造活性相関を検討した。PEPT発現HeLa細胞を用いて、典型的な基質Gly-Sarの取り込み活性に対するSUR阻害薬、スタチン系高脂血症薬の阻害効果および、医薬品のDEPC処理の保護効果により検討した。これらモノカルボン酸医薬品はGly-Sarの取り込みに対する阻害効果を示すものの、ニコチン酸やジペプチドとは異なり、DEPC処理に対する保護効果を示さなかった。これより、これらモノカルボン酸は、基質結合部位とは異なる部位に結合しGly-Sarの取り込み阻害を引き越していると推察された。モジュレーター機能は、ニコチン酸や脂溶性ジペプチド特異的であり、現在、PEPTにおける新たな生理的意義を探究している。 一方、バクテリアにおけるPEPT類似オリゴペプチド輸送担体タンパク質 (YdgR)を大量精製し、水溶性ペプチド脂溶性ジペプチドとの相互作用を熱力学的測定により解析した。結果、等温滴定型熱量計(ITC)を用いて基質とYdgRタンパク質との相互作用を検討した。基質との結合は、吸熱反応であり、エントロピー駆動型、水和水変化の伴う結合反応であった。これより、基質とPEPTとの相互作用に水和水が関与し、水和水の解離が基質結合に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジペプチド・トリペプチドから様々な医薬品を輸送するオリゴペプチド輸送担体PEPTの基質輸送における分子弁の役割を明らかにするために、動物細胞発現系およびアフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いて、PEPTと相互作用をする化合物の探索および、その相互作用機構について詳細な検討を行ってきた。 本年度は、PEPTと相互作用する可能性の有る種々の医薬品を用いて相互作用の構造活性相関を行い相互作用の特異性を明らかにした。 更に、バクテリアにおけるPEPT類似オリゴペプチド輸送担体タンパク質 (YdgR)を大量精製し、YdgRと脂溶性ジペプチドとの相互作用を熱力学的測定により解析した。ジペプチドとの相互作用に伴う熱量変化より、結合反応が基質結合部位からの水和水の放出を意味するエントロピー駆動型の吸熱反応であることを明らかにした。PEPTsoの結晶構造 (PDB:2XUT)に基づき、YdgRタンパク質のホモロジーモデリングを行い、基質のドッキングシミュレーションを行った。結果、結合に伴う水和水の解離、また、この水和水の存在が多彩な基質認識性をもたらしていることも明らかにした。また、これらと並行して、特異的なモジュレーターの発見により、PEPTの新たな生理的意義が存在するのではという作業仮説に基づいて、新たな機能探索を始めた。 これらの理由より、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においてモジュレーターとの相互作用において、発見した分子弁の存在を別のモデル輸送担体、Na+/モノカルボン酸共輸送担体(SMCT)においても明らかにすることを目指す。研究の進め方として、SMCTに相同性の高いグルコース輸送担体vSGLUTの結晶構造 (PDB: 2XQ2)を鋳型とした、ホモロジーモデリングを行う。典型的な基質の一つ、2, 4-dichloro phenoxyacetate (2,4-D) とのドッキングシミュレーションを行い、基質結合ポケットの物理学的性質を検討し、熱力学的測定法および電気生理学的測定法により基質結合認識機構を明らかにする。 一方、分子弁を明らかにする過程において,様々な基質のスクリーニングを行い,偶然,アミノ酸誘導体(cycloleucine)が良好な基質であることを見いだした。SMCTの本来の基質は短鎖脂肪酸やニコチン酸など、生体に取って重要なモノカルボン酸であるが、アミノ酸誘導体を輸送することができるという能力の発見は、SMCTがモノカルボン酸とは物性が大きく異なる、生体に重要な化合物を輸送する能力を有しているという作業仮説を提唱することとなった。この偶然の発見とPEPTの生理的機能の探索から、始まったトランスポーターの機能リポジショニングという機能探索は、分子弁の生理的役割を更に明確にすることができると期待された。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度でもある2020年度に、北海道大学(菊川峰志(研究分担))での高度な測定装置の開発のため、予算を繰り越した。最終年度は、菊川講師のもとで輸送担体と相互作用するタンパク質、モジュレーターの相互作用の可視化、定量的解析装置の開発に取り組む予定でいる。
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