研究課題/領域番号 |
18K06609
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
斉藤 貢一 星薬科大学, 薬学部, 教授 (40386347)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 危険ドラッグ / 生体内代謝・分解物 / 一斉分析法 / 網羅的分析 / LC/TOFMS / 未知薬物の定性・予測解析 |
研究実績の概要 |
国内・国外を問わず、麻薬や危険ドラッグなどの薬物の乱用による傷害事件,交通事故および中毒事故等が頻発しており、薬物の鑑定に関しては、多くの分析法が報告されている。しかし、生体内では薬物が代謝されたり、胃酸など消化液による分解反応を受けたりして、親化合物の検出が困難な場合があることや、乱用者が薬物を使用(服用)した時期と、検挙後に血液や尿など生体試料を採取した時期にタイムラグがあるため、使用した時期を推定するのが困難であることなど、“薬物使用”を立証する上での問題点がある。そこで本研究では、生体試料中の微量薬物分析法を検討すると共に、薬物の使用(服用)時期や量を推定するため、薬物とその代謝物や、胃・腸など消化管内における分解物に焦点を当てて薬物動態を調査することとした。 本年度は、乱用薬物を迅速に且つ網羅的に判定する分析法としてLC/TOFMSを用いた危険ドラッグの一斉分析法(Forensic Chemistry, 2019, DOI: 10.1016/j.forc.2019.100202)を構築した。当該研究論文では、化学計算によって算出するLogPowとLC保持時間に基づく未知の危険ドラッグを推定できる新たな方法であり、本研究課題に即した結果が得られた研究内容であり、今後の法科学分野での活用が期待される。また、薬物とその代謝物や、胃・腸など消化管内における分解物に焦点を当てた薬物動態調査に関しては、ベンゾジアゼピン系睡眠薬、三環形抗うつ薬およびバルビツール酸系睡眠薬を分析対象物質として人工胃液を用いたin vitro 実験を遂行し、生体内分解物の同定および物理化学的な挙動の解明を行っている。その結果、三環形抗うつ薬の一種、アモキサピンにおいて人工胃液中での分解物として新規物質を見出すことが出来た。これらの結果から、本研究事業タイトルで示された目的は達成されたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究申請時における令和元年度の計画では、危険ドラッグや麻薬、覚せい剤、向精神薬、有機溶剤(アルコール、シンナー、亜硝酸エステル類)、痩身用薬物などを想定し、これら乱用薬物を迅速に且つ網羅的に判定するために、LC/TOFMSやHS-SPME-GC/MSを用いた分析法を構築し、また、化学計算によって算出するLogPowとLC保持時間に基づく未知の薬物の定性分析法の検討を年度内における目標としていた。これらについては、上記の「研究実績の概要」で述べたように、すでにほぼ達成され、学術論文としても報告している。更に、令和元年度の研究計画として挙げていた、向精神薬や睡眠薬、β2作動薬などを対象として、胃液や腸液と接触して放置された際の薬物の化学的分解挙動、また肝臓での代謝を想定した酵素反応をin vitroで分析・調査し、生体試料分析における有効なターゲット物質を探索する研究に関しても、アモキサピンにおいて人工胃液中での分解物として新規物質を見出すなど、すでに有用な成果も得られている。したがって、令和元年度の研究成果としては、当初の計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究申請時における令和2年度の計画に示したように、令和元年度での先行研究として得られた成果を更に発展させて、乱用薬物の生体試料分析における有効なターゲット物質を探索する。これらについては、【現在までの進捗状況】で述べたように、人工胃液(腸液)や既存の代謝酵素などに薬物(麻薬、覚せい剤、向精神薬など)を接触させてin vitroでの分解・代謝挙動の解明を行っているところである。また、未知物質の同定が容易なLC/TOFMS等の機器分析を用いて薬物動態を追跡調査する。更に、平成32年度の計画として挙げているコンピュータシミュレーション(インシリコ)の手法を導入してヒトへの薬物動態解析の適用を検討して行く。その一つとして、未知化合物の構造推定を行うためには,定量的構造-保持相関 (Quantitative structure-retention relationship: QSRR)モデルの逆解析が有用と考えられる。QSRRは、各種統計的手法や機械学習の手法を用いて化学物質の構造特性と保持時間で回帰モデルを構築する手法である。また、逆解析とは従来のQSRRモデルとは逆に保持時間の目標を設定し、それを満たすような構造を推定する手法である。これまでの研究では様々な化合物に対してQSRRモデルが開発されているが、危険ドラッグに対するQSRR モデルほとんど見当たらない。そこで本研究では、危険ドラッグの構造推定を行うための逆解析モデル構築の前段階として、QSRRモデルの構築を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由);乱用薬物の試薬類およびインシリコ解析で必要とされるプログラムソフトなどは、一般的に高価であり、且つ輸入品の場合納品に時間がかかることがある。そのため、年度末に発注した場合、納品が翌年度になる可能性があったため、本年度事業のように年度をまたいだ継続事業においては、次年度において直ちに購入が可能になるように若干の余裕を持たせた。 (使用計画);本研究テーマを遂行するためには、上記の“理由”で記したように“標準品やソフトウエア”が不可欠であり、更に、GC/MSやLC/TOFMSなどのような高精度な装置で分析を行うためには、試薬類や分離分析に必要なHPLCカラムやGCカラム、またソフトウエアなども必要になることから、令和2年度の研究費では、これらの消耗品の購入を主として充てる。
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