研究課題/領域番号 |
18K06610
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
尾関 法子 (小川法子) 愛知学院大学, 薬学部, 講師 (80409359)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 共非晶質 / 非晶質製剤 / 溶解性改善 |
研究実績の概要 |
近年、高い薬理活性を期待して、薬効ターゲットに対する高い親和性を持つ医薬品化合物が合成・選択されている。これらの医薬品化合物では、膜透過率は高いが水への溶解性が著しく低いものが多い。こうした水への溶解性が低い難溶性薬物の溶解性を改善する手法の確立は、医薬品開発における最も重要な課題の一つである。難溶性薬物の溶解性を改善する方法の一つに固体分散体化がある。固体分散体とは、薬物を不活性な担体中に微粒子または分子状態で分散させた系であり、担体の溶解に伴って薬物が分子状態で溶媒中に分散することでその溶解性を向上させるものである。 本研究では、共非晶質ならびにシクロデキストリン(CD)類を固体分散体技術に適用し三成分系とすることで、従来の薬物と担体の二成分系固体分散体より優れた製剤設計を目指している。モデル薬物としてインドメタシンを用い、固体分散体用担体として両親媒性高分子である、ポリビニルカプロラクタム―ポリビニル酢酸―ポリエチレングリコールグラフトコポリマーを用い、固体分散体の調製は噴霧乾燥法により行った。添加剤としてインドメタシンと共非晶質を形成するアミノ酸と環状糖類であるCD類を用いた。共非晶質とは、二成分以上の低分子化合物の組み合わせにより安定化した非晶質状態とされ、製剤に共非晶質を配合することによって担体の配合量の低下が見込まれる。また、CDは環状糖類でありその空洞内に疎水性物質であるゲスト化合物を取り込み可溶化する。溶出試験の結果、水溶性のCD誘導体を添加して調製した固体分散体粒子ならびにアミノ酸を添加した固体分散体粒子は、添加していない二成分系固体分散体粒子と比較して、速い溶出速度と高い溶出率を示し、三成分系固体分散体が有用であることを明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、モデル薬物としてインドメタシン(IMC)と固体分散体用担体であるソルプラス (SOL)の質量比1:2の固体分散体粒子の処方を基に、アミノ酸[L-アルギニン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン]を添加して固体分散体を調製し、物性および溶出挙動を評価した。併せて、IMCとアミノ酸の共非晶質を調製し評価した。また、水溶性のシクロデキストリン(CD)誘導体であるヒドロキシプロピル-β-CD (HP-β-CD)を添加した三成分系固体分散体を、CDの添加量や溶媒条件、調製条件の異なる数種類の処方について調製し、高い溶出率を示す条件検討を行った。 アミノ酸とIMCによる共非晶質を調製するため、アミノ酸とIMCを混合粉砕したが、粉砕効率が十分でなかったためか、非晶質化しなかった。そこで噴霧乾燥法により調製した結果、L-アルギニンとIMCの噴霧乾燥試料はハローパターンを示し、非晶質となることを確認した。一方、SOLを含有する固体分散体粒子では、いずれのアミノ酸添加においても非晶質となった。溶出挙動検討の結果、アミノ酸を添加した噴霧乾燥粒子では、添加していない粒子と比較して速い溶出速度と高い溶出率を示した。中でもL-アルギニンを添加したSD試料が最も高い溶出率を示した。 HP-β-CDを添加した三成分系固体分散体では、噴霧溶液中のエタノールの割合が高い処方において優れた溶出性を示した。これは、噴霧溶液中のエタノールの割合が増えることでHP-β-CDと相互作用する分子状態のIMCが増加したためと考えられる。 実験計画法による処方最適化や保存安定性の評価は今後の課題であるが、アミノ酸とCD類を添加した三成分系固体分散体について、基礎的評価を遂行できたため、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに得た物性解析結果と溶出挙動結果を基に、三成分固体分散体化に実験計画法を適用し、最適処方を算出する。 HP-β-CDを添加した三成分系固体分散体では、本年度の検討結果について実験計画法を適用し、in vitro溶出性を観測値として、調製条件について応答局面を作成し、最適条件を検討する。必要に応じて実験を追加し、観測値として、安定性や生体膜透過性についても検討する。安定性評価は、調製試料を恒温恒湿度条件下で保存し、一定時間後の薬物の結晶性の変化を粉末X線回折測定法ならびに熱分析により評価する。外観については、走査電子顕微鏡で確認する。in vitro膜透過性評価では、3週間単層培養したCaco-2細胞に、試料溶液(溶液・懸濁液)を添加し、膜透過量を高速液体クロマトグラフ法(HPLC)にて定量し、膜透過係数を算出することで評価する。なお、使用する生体膜の細胞膜抵抗値(TEER)を測定し、膜形成について確認する。共非晶質を含有した三成分固体分散体については、引き続きアミノ酸を添加したインドメタシンとソルプラスの固体分散体について、最適処方を検討するとともに、他のアミノ酸についても検討する。また、他のモデル薬物と共非晶質を形成する添加剤を用いた固体分散体調製を試み、実験計画法により最適処方を検討する。 最適処方についてはin vivo評価を行い、薬物吸収性改善を確認する。in vivo評価については、雄性 Wistarラットに、共非晶質を含有する固体分散体と薬物原薬、物理混合物をそれぞれ経口投与した後、経時的に採血する。血漿中の薬物濃度をHPLCにより定量し、薬物の経時的変化を評価しAUC、MRT等の薬物動態パラメータを算出する。 なお、研究が当初の計画通りに進まないときは、実験の順番や使用物質、方法の逐次変更を適宜行うことで研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:年度末の3月に国内学会に出張したため、その出張旅費は次年度分に計上された。また、実験に必要不可欠な噴霧乾燥機の部品(約11万円)の交換が2月に必要になったが、納品が次年度の4月になったため、その予算が次年度に計上された。 使用計画:固体分散体を調製するために必要な試薬や溶媒を購入する。また、物性評価や溶出評価に必要な溶媒や試薬、器具などを購入する。また、Caco2細胞を購入し、維持・培養するための消耗品も購入する。さらに、本研究で得られた成果を学会で発表する目的で出張経費を、また投稿論文として発表するために論文の別刷などの諸経費を計上している。
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