水への溶解性が低い薬物の溶解性を改善する手法の確立は、医薬品開発において重要な課題である。本研究では、二成分以上の低分子化合物の組み合わせにより形成される非晶質状態である共非晶質に着目し、水への溶解性が低い薬物の溶解性改善ならびに非晶質状態の安定化を図った。これまでに我々は、水への溶解性が著しく低いプロブコール(PC)とアトルバスタチンカルシウム三水和物(ATO)がスプレードライ(SD)法により共非晶質を形成することを見出している。また、作製した共非晶質ならびに固体分散体がPC単体と比較して、高い溶解度と速い溶出速度を示したことから、共非晶質化ならびに固体分散体化の有用性を明らかとした。さらに、ATOと同様にスタチン類であるフルバスタチンナトリウム水和物(FLU)によるPCの共非晶質化を図り、試料中のPCとスタチン類の相互作用を評価した結果、ATOとFLUは同種の薬物であっても異なるメカニズムによりPCと非晶質を形成することを明らかにしている。本年度は、共非晶質の形成メカニズムをさらに解明するため、PC、ATO、FLU単体による非晶質の作製と物性評価を試みた。PCは著しく結晶性の高い薬物であるが、溶媒による溶解と加熱・急冷却を組み合わせることによって、PC単体の非晶質作製に成功した。作製したPC、ATO単体の非晶質ならびに非晶質PCと非晶質ATOの物理混合物を作製し、安定性試験を行った結果、SD法によるPCとATOの共非晶質は、非晶質PCと非晶質ATO、ならびに両者の物理混合物と比較して、安定性が高いことが明らかとなった。熱分析によるガラス転移温度の測定を行った結果、SD法によるPCとATOの共非晶質では、非晶質PC、非晶質ATO、ならびに両者の物理混合物と比較して、高いガラス転移温度を持つことが分かり、共非晶質の安定性の高さを裏付ける結果となった。
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