現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、アルデヒド還元酵素 (AKR) の1つであるAKR1B10およびAKR1C3に着目した。AKR1B10はAKR1B1と71%の相同性を持つことから、活性の強いものはAKR1B10に対する選択性が低く、選択性の高い阻害剤は阻害活性が低い。また、AKR1C3についてもAKR1C1, C2, C4と84%以上の高い相同性を持っており、交差阻害による副作用が起こる可能性がある。AKR1C3では、Ser118, Asn167, Phe306, Phe311, Tyr319からなるSP1領域と阻害剤が結合することで、より強力で選択的な抗がん剤が得られると期待されている。 本研究では、AKR1B10とAKR1C3の強力で選択性のある阻害剤の探索を目的に、スーパーコンピュータ「富岳」を用いて、AKR1B10阻害剤複合体、AKR1B1阻害剤複合体、AKR1C3阻害剤複合体、AKR1C2阻害剤複合体のフラグメント分子軌道 (FMO) 法と分子動力学 (MD) シミュレーションを行った。 その結果、AKR1B10ではTrp21と阻害剤間のπ-π相互作用、Val48と阻害剤間のCH-π相互作用、Tyr49と阻害剤間のπ-π相互作用が選択性に関与していると示唆された。さらに、His111と阻害剤間の水素結合も選択性に関与していると示唆された。そのため、Trp21, Val48, Tyr49の3残基との分散相互作用およびHis111との水素結合をするような構造を導入することで、選択性の高い新規阻害剤を作成できると考えられる。 AKR1C3ではPhe306と阻害剤間のπ-π相互作用、Phe311と阻害剤間のπ-π相互作用が選択性に関与していると示唆された。そのため、Phe306, Phe311と分散相互作用をするような芳香環などを導入することで選択性の高い新規阻害剤を開発できると考えられる。
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