芳香族有機酸の馬尿酸、メチル馬尿酸、マンデル酸、フェニルグリオキシル酸は、トルエンやキシレン、スチレンに暴露された有機溶剤取扱作業者の尿中最終代謝産物である。これらの尿中濃度は予防医学の観点から特殊健康診断の測定項目で、年間約70万人の作業者が対象となっている。近年対象者は増加傾向だが、多検体を処理できる迅速・簡便な測定法が無い。 本研究は、芳香族有機酸ハイスループット測定法の開発を最終目的とした。臨床検査分野では生体試料の成分分析を主に酵素的測定法で行い、自動分析装置の使用で1時間当たり数百検体以上処理する。本研究では、新規な芳香族有機酸反応性酵素をタンパク質工学技術により創成し、簡易なハイスループット測定法の開発を目指した。 初年度は、乳酸オキシダーゼ活性中心の合理的デザインにより、マンデル酸への反応が乳酸の0.01%未満だった酵素を、マンデル酸と十分反応し乳酸とは反応しないマンデル酸オキシダーゼへ改変することに成功した。本酵素により、マンデル酸の酵素的測定が可能となった。 令和元年度は、超好熱菌由来カルボキシペプチダーゼに馬尿酸・メチル馬尿酸加水分解酵素活性を見出し、本酵素とサイクリングアッセイを組合わせた馬尿酸・メチル馬尿酸総量測定法を開発した。また、野生型に対し馬尿酸・メチル馬尿酸反応性が4~31倍向上した多重変異体を得た。 令和二年度は、新たに2種の馬尿酸加水分解酵素を発見、うち1種は前年度開発の酵素より遥かに高活性で、実用に目処を得た。さらに、本酵素反応で生成するグリシンをグリシンオキシダーゼで追随するシンプルな酵素的測定法を考案、実証した。 令和三年度は、追随酵素のグリシンオキシダーゼをタンパク質工学技術により改変、比活性が約4倍向上し基質阻害が見られなくなった改良酵素を開発した。さらに、乳酸デヒドロゲナーゼをベースとしたフェニルグリオキシル酸反応酵素を開発中である。
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