研究実績の概要 |
活性酸素ラジカルに対して非常に優れた消去活性を示す抗酸化物質は、生活習慣病や老化、放射線障害に対する医薬品への応用が期待されている。しかし、抗酸化物質の試験管内におけるラジカル消去活性と細胞実験や動物実験で得られる活性は必ずしも相関しない。これは水溶液中におけるラジカル消去活性および反応機構に不明な点が多く残されているからである。本研究では、有機溶媒中で頻用されている2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカルをβ-シクロデキストリンで水溶化し、緩衝溶液中における抗酸化物質のラジカル消去活性を速度論的に評価した。 平成30年度には、水溶性ビタミンE誘導体Troloxや(+)-カテキン、アスコルビン酸(ビタミンC)による水溶化DPPHラジカル消去の二次反応速度定数(kH)がpHの上昇に伴って増加することを明らかにした。 平成31/令和元年度には、kH値がマグネシウムイオンの添加によって大きくなることから、反応に電子移動過程が関与することが明らかとなった。 令和2年度には、重水を用いたリン酸緩衝液中で二次反応速度定数(kD)および速度論的同位体効果(kH/kD)を決定し、Troloxから水溶化DPPHラジカルへの水素移動反応に量子トンネル効果が関与していることを明らかにした。 令和3年度には、2-フェニル-4,4,5,5-テトラメチルイミダゾリン-1-オキシル 3-オキシド(PTIO)ラジカルを用いて水溶性抗酸化物質との反応を行った。その結果、アスコルビン酸によるPTIOラジカル消去のkH値はpHによって変化しなかった。これは、水溶化DPPHラジカルのkH値のpH依存性は、DPPHラジカル自身の反応性によるものであることが明らかとなった。また、水溶化DPPHラジカルの還元電位はpHの上昇に伴って低くることが分かった。 令和4年度は得られた結果を総括した。
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