研究課題/領域番号 |
18K06621
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
萩原 健一 国立感染症研究所, 細胞化学部, 室長 (40192265)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プリオン / アミロイド / βへリックス |
研究実績の概要 |
マウス・プリオン蛋白質(PrP)が正常型から異常型へ変換される過程でβへリックスへと構造変換すると予想されているPrPのアミノ酸配列(マウスPrPのアミノ酸配列のおよそ112~175番目に相当)を、①立体構造が既知のP. anserina由来の蛋白質Het-sおよびE. coli由来のLpxAのβへリックス配列で置換したcDNAを作製した。また、②この配列部分をニワトリPrPの対応する配列に置換したマウス・ニワトリのキメラcDNAを作製した。さらに、③異常型PrPの予想モデルにおいてβへリックスの重層構造の第4層に相当し、欠失させても正常型から異常型への変換を妨害しないことが示されているアミノ酸配列(マウスPrPの141~176番目のアミノ酸)を人為的に重複させたcDNA、およびこの第4層でβへリックス構造の外側へ排除されたループ構造と想定されている部分(マウスPrPの152~160番目のアミノ酸)をHet-sのループと置換したcDNA、などの複数種を作製した。これらのcDNAをプリオン持続感染細胞へ導入・発現させたところ、マウス・プリオン蛋白質の129~156番目のアミノ酸(27残基)をニワトリのアミノ酸を配列で置換したキメラ(アミノ酸18残基がマウス型と不一致)が、プロテアーゼK(PK)消化に対して抵抗性をもつ断片を生じた。このPK抵抗性の断片をSDS-ポリアクリルアミド電気泳動にかけると、全長がマウスPrP配列である非キメラ体から生じる異常型PrPのPK抵抗性の断片の泳動度の半分程度の分子量を示し、凝集体の成り立ちに興味が持たれた。一方、Het-sやLpxAの部分配列と置換したキメラ体をプリオン持続感染細胞へ導入・発現させても、当初の予想に反して、PK抵抗性の断片の生成は認められていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験を計画どおりに進めているが、実験から得られる結果が必ずしも当初の予想どおりではない。予想外の実験結果を踏まえてプリオン蛋白質のキメラ体の設計などを見直しているため、計画よりも進捗は緩やかである。その反面、実験結果が予想どおりではないことによって新たな着想や実験手法の工夫へと繋がっており、着実に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に沿って、作製した移植・キメラ蛋白質遺伝子をプリオン持続感染細胞に発現させ、感染細胞が有するPrPC→PrPSc変換能において、人為的に導入したβへリックス等のアミノ酸配列がどのように振る舞うのかについて引き続き系統的に検討する。また、キメラ蛋白質遺伝子を大腸菌や昆虫培養細胞で発現させ、アミロイド凝集体を形成するキメラ蛋白質をチオフラビンTの蛍光染色、プロテアーゼKへの抵抗性、によりスクリーニングしたい。研究計画時には、以上の結果をin vivo実験(マウスへの投与により正常型PrPの凝集が誘起されるかという点の検証)へ繋げたいと考えていたが、その後の情報収集やこれまでの実験結果からin vivo系へ展開させるのは難しいと考えるようになった。そのため、計画書に記したin vitro系による研究に注力することにする。一方、当初の計画には無かったが本研究の進展によって得た着想から、プリオンに感染した動物の脳組織に蓄積したプリオンに対して、光照射によるチロシンやトリプトファン残基間の架橋反応を初年度から試みている。この光架橋実験は初期段階だが、異常型PrPのPK抵抗性断片のN末領域のトリプトファンやC末認領域のチロシン間の空間的な近接度を反映すると推測される実験データが得られつつある。キメラ蛋白質創製による細胞生物学的データと架橋反応による生化学的データを相補させることで、今後の研究を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文掲載のための本年度の予算が未使用となった。また、消耗品について、既製の蛋白質電気泳動ゲルの代わりに自製品の適宜使用、業者のキャンペーン価の活用、プラスチック製品の再利用、などにより消耗品費(物品費)の支出を抑えることができた。次年度は論文掲載のための経費、計画している消耗品の購入費、および本研究で使用中の振とう型アルミブロックヒータ(PKの酵素反応に使う)の修理費、等に使用する計画である。
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