研究課題/領域番号 |
18K06621
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
萩原 健一 国立感染症研究所, 細胞化学部, 主任研究官 (40192265)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プリオン / アミロイド / βヘリックス / 光架橋反応 |
研究実績の概要 |
異常型プリオン蛋白質(PrPSc)の推定構造の一つとして提唱・支持されているβへリックスモデルを実験科学的に検証することを目的とした研究を進め、本年度は以下の結果を得た。①マウス正常型プリオン蛋白質(PrPC)の場合には、およそアミノ酸90番目から170番目の部分がPrPCからPrPScへ変換する過程においてβへリックス構造へ転換すると推測されている。そこで、昨年度に引き続き、マウスPrPCのアミノ酸90番目から170番目を他の蛋白質(大腸菌のlpxA蛋白質、糸状菌のHetS蛋白質、など)がもつ既知のβへリックス構造によって置き換えた改変プリオン蛋白質(改変PrP)のcDNAを系統的に作製した。本来のPrPC配列を改変して人為的にβへリックスを導入させたこれらの改変PrPを、プリオン非感染細胞(神経芽細胞腫由来)あるいはプリオンが持続感染している細胞に発現させた場合に改変体の凝集体形成が亢進しているかという点を調べたが、残念ながら、凝集体形成能が亢進した改変体は見つからなかった。一方、②ルテニウム錯体と光照射を組み合わせたチロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)残基のラジカル架橋反応(Chem Biol, 7: 697 (2000))に着想を得て、このアプローチによるPrPSc凝集体の空間トポロジーの解析を進めた。これまでの結果から、ルテニウム錯体がPrPScのアミノ基側の領域(アミノ酸配列のおよそ110~160番目)に接近できること、また、この領域がPrPSc単量体同士の境界面に位置する可能性があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
実験から得られる結果が、当初に予測したものとは必ずしもならなかった。予想外の実験結果となったために当初の計画には無い追加実験を行い、また、他のアプローチ(光架橋法)による展開を工夫し、そのための準備が加わった。また、COVID-19関連の業務があったために、本研究課題への配分時間が減少した。
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今後の研究の推進方策 |
計画した一連の改変PrPの作出を完了し、プリオン非感染細胞(神経芽細胞腫由来)あるいはプリオンが持続感染している細胞にこれらの改変PrPを発現させたが、スクリーニングの結果、凝集体の形成能が亢進した改変体は発見できなかった。このように、PrPSc凝集体の構築原理は、提唱されている複数のβへリックスのモデルを元にして研究代表者が考察していたよりも複雑であることがわかった。一方、本研究から、①マウスPrPのアミノ酸配列の130番目よりもC端側のアミノ酸配列を他の配列に置換した改変PrPでは、N端側が凝集体を形成できる、②PrPScのアミノ基側の領域(アミノ酸配列のおよそ110~160番目)がPrPSc単量体同士の境界面に位置するらしい、という実験結果を得た。これらの結果は、凝集体の構築にPrPScのN端側が寄与していることを示唆すると考えている。データを集積し、プリオンの推定構造に対してウェット実験に基づく裏付けを与える、という研究目標を早期に完遂したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費予算が未使用となった。消耗品費は、既製の蛋白質電気泳動ゲルや試薬の代わりに自家調製したものを使用したり、業者キャンペーンの活用、プラスチック製品の再利用、などにより支出を適正に抑えた。また、論文完成が計画より遅れ、投稿関連の予算が未使用だった。未使用額は、今後の論文投稿費、消耗品の購入費に使用する。
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