研究課題
異常型プリオン蛋白質(PrPSc)の構造解明はPrPScのアミロイド凝集性、凝集体の非単一性、感染性などのために容易ではないが、クライオ電子顕微鏡像などに基づくモデリングからβへリックスモデルが提唱されている。本研究ではβへリックスモデルを念頭に、PrPScの構造の理解へ繋げるウェット実験を進めた。モデルでは、正常型プリオン蛋白質(PrPC)からPrPScへの変換に伴って、PrPCのアミノ酸残基およそ90番目から170番目(マウスのプリオン蛋白質PrPのアミノ酸番号)がβへリックス構造に転換すると考えられている。そこでこの領域をβへリックス構造を持つことがわかっている大腸菌のUDP-N-アセチルグルコサミン O-アシル転移酵素、糸状菌のHet-s蛋白質、昆虫の不凍結蛋白質などのβへリックス部分のアミノ酸配列に置き換えた改変プリオン蛋白質(PrP改変体)を作製し、これらをプリオン感染細胞あるいは非感染細胞に発現させて、PrP改変体がプロテアーゼK(PK)消化に対して抵抗性のアミロイド様の凝集体へ変換されるか否かを調べた。実験の結果、ほぼ全てのPrP改変体は、当初に予期したようなPK抵抗性を獲得しなかった。一方、PrPのC末端近傍の約30アミノ酸を欠失させた短鎖PrPをプリオン持続感染細胞に発現させると、PK抵抗性をもつ分子種に変換されることを見出した。また、光化学反応などを利用してPrPSc凝集体の架橋実験を行った。架橋部位の正確な同定はできなかったが、部位特異的抗体を用いて検索した結果、PrPScのアミノ酸残基90-100番目に架橋が生じていると推定され、また、C末端は凝集体構造の表面付近と内部の2つの状態に位置する可能性が推察された。以上の一連のウェット実験の結果の解釈は難しいが、提唱されているβへリックスモデル構造と必ずしも合致するものではないと総合的に考えられた。
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