研究課題/領域番号 |
18K06622
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野口 拓也 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (20431893)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アポトーシス / キナーゼ / RNAiスクリーニング / Fas |
研究実績の概要 |
Fas/CD95はデスレセプターの一つであり、Fasリガンドとの結合によってアポトーシスを引き起こす。申請者は、Fas誘導性アポトーシスを制御するキナーゼを網羅的に探索するためにキナーゼ特異的なRNAiスクリーニングを行い、Fas誘導性アポトーシスを正に制御する新たなキナーゼとして癌抑制遺伝子LKB1/STK11を同定した。そこで、本研究においてはこの機構を解明し、STK11によるFas誘導性アポトーシス制御機構の全容を解明することを目的とする。 STK11は腫瘍抑制因子として機能するセリン・スレオニンキナーゼであるにも関わらず、アポトーシス制御に関する機能についてはよく分かっていない。これまでの予備検討から、STK11がキナーゼ活性依存的にアポトーシス誘導を促進していることが示唆されていたが、STK11欠損細胞を用いた再構築実験により、STK11はキナーゼ活性非依存的にもアポトーシスを誘導することが判明した。さらに、STK11によるキナーゼ活性非依存的なアポトーシス誘導機構は、キナーゼ活性依存的な機構よりも寄与が大きいことが判明した。そこで、当該年度はSTK11によるキナーゼ活性非依存的なアポトーシス誘導機構について解析を進めてきた。 Fas誘導性アポトーシスには、ミトコンドリアを介する内部経路によるシグナル増幅を必要とする経路と、内部経路を必要とせずCaspase-8活性化のみで十分にアポトーシスを誘導可能な経路(外部経路)がある。当該年度の研究では、STK11がFasリガンド処置依存的なCaspase-8とCaspase-3を含む多分子複合体の形成を促進することで外部経路によるアポトーシス誘導を促進していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
STK11は癌組織で多くの変異体が報告され、その中にはキナーゼ活性を保持した変異体も存在し、STK11はキナーゼ活性非依存的にも腫瘍形成を抑制していることが考えられるが、その分子機構は不明である。 今年度は計画通り、STK11によるキナーゼ活性非依存的なFasシグナル制御機構の解析を遂行した。今年度の解析により、STK11がキナーゼ活性非依存的にアポトーシスを促進することが判明し、この機構がSTK11によるキナーゼ活性非依存的な抗腫瘍作用の一つであることが示唆され、その詳細なメカニズムについて解析を行った。その結果、STK11がFasの下流で、外部経路の活性化を促進させる多分子複合体を形成することでアポトーシスに対する感受性を高めていることが判明した。また、STK11を発現していないヒト子宮頸癌細胞株HeLaを用いて、癌組織で見出されている変異体の再構築細胞を作成し、Fas誘導性アポトーシスにおけるSTK11の機能的役割を解析した結果、癌組織で見出されたSTK11の変異体の一部は、アポトーシス誘導能がないことが判明した。これらの結果は、STK11の外部経路活性化能が、STK11の主要な抗腫瘍作用であることを示唆するとともに、本機構が癌の進展と深い関わりがあることを示唆している。よって、当該年度に遂行した、STK11によるキナーゼ活性非依存的なFasシグナル制御機構の解析は順調に進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって、STK11がキナーゼ活性非依存的に多分子複合体の形成を促進することがわかった、また、この複合体の形成は、外部経路の活性化を促進し、より効率的にアポトーシスを誘導する新たな仕組みであることが示唆された。しかし、複合体の分子実態は未だ明らかになっていない。次年度においては、この多分子複合体の分子実態の解析を行う。また、STK11はキナーゼドメインの他に、核移行シグナル、膜へのアンカーに関与するファルネシル化サイト、上流キナーゼによるリン酸化部位等を有するため、これらの機能欠損変異体を作成し、変異体と同様に安定発現細胞株を樹立し、STK11のキナーゼ活性非依存的な多分子複合体の形成に必要なドメインや構造を明らかにし、多分子複合体の機能的役割を解明する。 STK11がキナーゼ活性非依存的に生存シグナルであるNF-κB経路の活性化も抑制し、生と死のシグナルを両面から調節することでFas誘導性アポトーシスを協調的に促進することが示唆されている。しかし、STK11がNF-κB経路の活性化を抑制する機構については未だ明らかになっていない。そこで、STK11によるNF-κB経路の活性化抑制機能についての解析を進める。特に、STK11による生と死のバランス制御機構の解明を念頭に置き、今年度の研究で見出した、アポトーシスを促進する多分子複合体と生存シグナル活性化を担う複合体であるFADDosomeのクロストークや相互作用を解析する。また、癌組織で見出されている変異体の再構築細胞を用いて、それぞれの変異体のNF-κB経路活性化に対する影響を評価する。一方、細胞死を誘導するデスリガンドとして、Fasリガンドの他にTRAIL、TWEAK、TNF-αがある。生と死のバランス制御機構が他のデスレセプター下流でも普遍的に機能するか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室内にあったマイクロプレートリーダーが老朽化したため、今年度は設備備品としてマイクロプレートリーダーの購入予算を計上していたが、UVランプや接続部品の交換によって問題なく作動することが判明し、設備備品の購入を見合わせた。しかし、次年度以降に本備品の購入が必要になる場合や、消耗部品のさらなる交換が必要になる可能性があるので、その分の予算を確保した。
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