研究実績の概要 |
ホスファチジルイノシトール-3,4,5,ー三リン酸(PIP(3,4,5)P3)は細胞増殖制御において中心的な役割を果たすリン脂質シグナル分子である。我々は、ホスファチジルイノシトール-3,4-二リン酸(PI(3,4)P2)の脱リン酸化酵素と考えられてきたがん抑制遺伝子産物INPP4Bが、PI(3,4,5)P3をも基質とすることを独自に見出し、報告した。本研究ではこのINPP4Bの脂質リン酸化活性によって担われる抗がん作用の機序を、培養細胞および病態モデルマウスを用いて明らかにすることを目的としている。特に、種々のがんで高頻度に欠失しているPI(3,4,5)P3脱リン酸化酵素PTENの機能をINPP4Bが代替しうる可能性に着目している。 平成30年度には、非アルコール性依存性肝炎(NASH)モデルとして知られる肝特異的PTEN欠損マウスを用いたin vivoでの検証を行った。本モデルではPTEN欠損による前がん病変(脂肪肝・線維化)が顕著であり、PI(3,4,5)P3の過剰な蓄積によるAkt経路の活性が認められる。肝臓は外来遺伝子導入が容易な臓器であり、目的外来遺伝子をアデノウイルスベクター用いて尾静脈から投与することで、組織における効率的かつ持続的な発現を導くことが出来る(目的遺伝子の下流にIRESーEGFPを挿入しておくことで、外来遺伝子の発現を抗GFP抗体による免疫染色により確認できる)。本手法を用いて、アデノウイルスベクターに野生型および脱リン酸化活性を完全に消失させたC842S変異体のINPP4Bを組み込み、それぞれ4週齢の肝特異的PTEN欠損マウスに投与して、前がん病変の一つである10週齢時の脂肪肝への影響を検討した。しかしながら、野生型のINPP4B遺伝子発現によって統計的に有意な脂肪肝の抑制は認められなかった。
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