研究実績の概要 |
ホスファチジルイノシトール-3,4,5,ー三リン酸(PIP(3,4,5)P3)は細胞増殖制御において中心的な役割を果たすリン脂質シグナル分子である。我々は、ホス ファチジルイノシトール-3,4-二リン酸(PI(3,4)P2)の脱リン酸化酵素と考えられてきたがん抑制遺伝子産物INPP4Bが、PI(3,4,5)P3をも基質とすることを独自 に見出し、報告した。本研究ではこのINPP4Bの脂質リン酸化活性によって担われる抗がん作用の機序を、培養細胞および病態モデルマウスを用いて明らかにする ことを目的としている。特に、種々のがんで高頻度に欠失しているPI(3,4,5)P3脱リン酸化酵素PTENの機能をINPP4Bが代替しうる可能性に着目している。PTENの 不活化により引き起こされるがんの発症や進展を、INPP4Bの人為的な活性化によって抑制することが出来れば、新たな創薬標的分子の提示につながるものと期待される。 令和2年度には、条件付きでINPP4Bを高発現させることが可能となる遺伝子改変マウスの作製に成功した。本マウスは、Rosa26遺伝子領域に、CAGプロモーター制御下に2つ のloxPサイトで挟まれたstopコドンカセット、および野生型のヒト組換えINPP4B遺伝子をタンデムに組み込んだノックインマウスである。特定の細胞、組織特異的にCreリコンビナーゼを発現するトランスジェニック、もしくはノックインマウスと交配することで、それらの細胞、組織特異的にヒトINPP4B遺伝子を発現させることが出来る。現在、肝特異的PTEN遺伝子欠損マウスとの交配を進めており、PTEN遺伝子を欠損した肝特異的にINPP4Bを代償的に高発現するマウスを作製し、INPP4B発現による発がん抑制の可能性を検証する計画である。
|