研究課題/領域番号 |
18K06624
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武富 芳隆 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (40365804)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脂質代謝 / 脂質メディエーター / ホスホリパーゼA2 / リゾリン脂質 / マスト細胞 / アレルギー |
研究実績の概要 |
組織微小環境において、マスト細胞から分泌されるⅢ型分泌性ホスホリパーゼA2(sPLA2-Ⅲ)は、周縁の線維芽細胞からの脂質メディエーター(PGD2)の産生を促すことにより、マスト細胞の成熟と即時型アレルギーを制御する(Nat Immunol 2013)。本研究をさらに発展させ、新たにリゾホスファチジン酸(LPA)がマスト細胞の成熟に関わることを見出した。sPLA2-Ⅲはマスト細胞と線維芽細胞の共培養に伴い分泌されるエクソソーム中のリン脂質を分解してリゾリン脂質(LPC, LPE)とアラキドン酸を遊離した。マイクロアレイ解析の結果、本共培養に伴い線維芽細胞において最も強く発現誘導される分子は各種リゾリン脂質をLPAへと変換するオートタキシン(ATX)であった。ATX阻害剤は本共培養に伴うマスト細胞の成熟を抑制した。6種類のLPA受容体のうちマスト細胞の成熟に関わるのはLPA1であり、本受容体の阻害剤は共培養に伴うマスト細胞の成熟を抑制した。LPA1はマスト細胞よりも線維芽細胞の方に高発現しており、共培養に伴うマスト細胞の成熟は線維芽細胞に発現しているLPA1の欠損により抑制された。さらに、線維芽細胞のLPA1欠損は線維芽細胞からのPGD2産生を部分的に抑制した。LPA1欠損マウスの組織マスト細胞は未成熟であり、ヒスタミン含量の低下とアレルギー低応答性を示した。マスト細胞欠損マウスに野生型マスト細胞を移植再構成すると、抗原依存的なアレルギー応答性は野生型マウスと同等に認められたが、LPA1を欠損したマスト細胞欠損マウスを用いた場合のアレルギー応答性はLPA1欠損マウスと同様に不十分であった。以上の結果から、sPLA2-ⅢはPGD2とともにLPAの動員に関わり、このLPAは線維芽細胞上のLPA1に作用することによりマスト細胞の成熟を制御することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はリン脂質代謝の初発段階を制御するPLA2分子群の固有に機能に着目し、環境因子の曝露に対する防御反応や組織恒常性の破綻に基づくアレルギーの発症進展に関わる未知の脂質代謝とその意義を解明することを目標に掲げている。初年度はアトピー性皮膚炎とリンクする皮膚バリアに関わる新しい脂質経路、本年度は即時型アレルギー担当細胞細胞のひとつであるマスト細胞の調節に関わる新しい脂質経路を発見するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、PLA2を始点とする新規脂質メディエーター経路がどのようなメカニズムによって細胞応答(皮膚バリアあるいはマスト細胞成熟)を調節するのかに焦点を当てた解析を行う。具体的には、皮膚バリア機能を発揮する上で重要な役割を担う表皮角化細胞あるいはマスト細胞成熟の鍵を握る線維芽細胞における当該脂質シグナルが調節するエフェクター機能を明らかとする。これをもって、最終年度に論文発表を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は脂質関連分子の遺伝子改変マウスを用いた解析を基盤に研究を推進しているが、本年度の解析に用いる遺伝子改変マウスの頭数の確保に予定よりも多くの時間を要したため、結果的に予定額よりも少ない予算で研究を遂行することとなった。そのため、残額を次年度の解析用に補填することにした。
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