研究課題
転写因子MKL1およびMKL2の遺伝子変異は、それぞれ統合失調症、自閉スペクトラム症のリスクファクターである。したがって、正常MKLによる遺伝子発現制御の機構を知ることは、「脳の作動原理」に加え、「精神疾患や発達障害の機構」解明に貢献する。申請者らは、MKL1とMKL2に交差特異性がある新しい高品質抗体の作製に成功し、MKLがシナプスにあり、神経活動依存的に核移行すること、神経機能分子Arc遺伝子がMKL2によって制御されることを発見した。以上のことから、申請者は「MKL1とMKL2がそれぞれ特有の結合分子を介してシナプスから核へと情報を運び、神経系遺伝子の発現を制御している」と着想した。2018年度は、MKL2のシナプスから核への移行に必要なシグナル伝達経路を明らかにした。阻害剤を用いた解析により、NMDA型グルタミン酸受容体とL型カルシウムチャネルの活性化や脱リン酸化酵素カルシニュリンの活性化が核移行に必要であることが明らかとなった。また、アクチン重合も核移行に重要であることも示唆された。また、インタラクトーム実験(MKL結合分子同定)を見据え、既知の結合分子であるβアクチンやインポーチンのクローニングも進行させている。上述したように、カルシニュリンが新しい結合分子である可能性が浮上したため、カルシニュリンの発現ベクターの構築を行っている。それとともに、MKL2がカルシニュリンによる脱リン酸化を受け、核に移行する新しいメカニズムが想定されたため、脱リン酸化部位と予想されるアミノ酸を対象に部位特異的変異導入を行い変異型MKL2の発現ベクターの構築も行った。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要で述べた通り、2018年度の実験結果で、カルシウムシグナルやカルシウム依存性脱リン酸化酵素カルシニュリンの関与が強く示唆されたため、新しいMKL結合分子としてカルシニュリンが浮上した。これまでは、βアクチンやインポーチンとの相互作用が報告されていたが、カルシニュリンの発見は大きい意義がある。これを起点に既知の相互作用分子に加え、カルシニュリンとの相互作用、それによるMKL2の脱リン酸化が新しいシナプスから核へのシグナリング調節の実体を担う可能性がある。上記、相互作用分子の発現ベクターの構築も順調に進んでおり、それを用いた相互作用実験を行う体制が整いつつある。さらに、プロテオーム研究の専門家と共同研究を開始したため、更なる新しい相互作用分子が網羅的に明らかになる可能性が高い。以上のことから、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
1.相互作用実験を行うため、今後は、免疫沈降実験を行う。核輸送分子インポーチンやβアクチン、カルシニュリンとの相互作用を有無を検証する。2.カルシニュリンによるMKL2核移行の機構の解明を行う。カルシニュリンをクローニングしたのちに、恒常活性化型カルシニューリン発現ベクターを構築する。その過剰発現により、MKL2の核移行が促進されるかどうかを検証する。また、カルシニュリンによってMKL2が直接脱リン酸化されるかどうかの検証も行う。3.変異MKLの機能破綻機構の解明を行う。変異MKLの一例として、自閉スペクトラム症患者で発見されたMKL2変異があり、これはアルギニンからトリプトファンへの置換である(Neale et al.Nature 2012)。また、申請者らは、マウスMKL2遺伝子を用いた結果、本変異が正常MKLとは異なり、樹状突起形態複雑化を減少させることを見いだした(論文準備中)。そこで、カルシニュリンやアクチン、インポーチンなど既知結合分子との相互作用が変異型MKL2で障害されるかどうかについて検証する。4.MKL2核移行によって制御される遺伝子の発現制御機構を明らかにする。SRF標的神経機能遺伝子群(例: homer1,neureglin1, neurexin1など)を連結させたホタルルシフェラーゼレポーターベクターの構築→結合分子のRNA干渉ベクターとレポーターベクターの培養大脳皮質神経細胞への導入→神経活動を引き起こす刺激→遺伝子プロモーター群が共通して活性抑制されるかどうかの検証→クロマチン免疫沈降法でMKLと候補分子、DNAとの相互作用が神経活動で強化されるかどうかの検証を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
Journal of Neurochemistry
巻: 148 ページ: 204-218
10.1111/jnc.14596
http://www.pha.u-toyama.ac.jp/bioche1/index-j.html
https://www.u-toyama.ac.jp/education/news/2019/0419.html