ヒト膵管がん由来であるPanc1細胞は、多くのがん細胞で消失している一次繊毛を低頻度ながら形成する。CRISPR/Cas9法により、一次繊毛形成に必要であることが知られているタンパク質Cep164またはIFT80に変異を導入した細胞株を樹立した。これらの細胞株の一次繊毛形成を調べたところ、Cep164変異株では著しく一次繊毛が減少し、IFT80変異株では一次繊毛が消失した。次に、これらの細胞株にCep164またはIFT80を異所的に発現させたところ、一次繊毛の形成が回復したことから、樹立した細胞株では変異を導入した遺伝子依存的に一次繊毛が減少、または消失することが確かめられた。これらの細胞株を用いてがん細胞の増殖能を調べるコロニー形成アッセイを行ったところ、Cep164変異Panc1細胞は野生型Panc1細胞と比較して、多くのコロニーを形成することが分かった。この傾向は、足場非依存的なコロニー形成を調べるソフトアガーコロニー形成アッセイにおいても観察された。さらに、野生型Panc1細胞に対して、一次繊毛を除去する薬剤である抱水クロラール(ClHy)を処理したところ、Cep164変異細胞と同様にコロニー形成能が高まることが分かった。また、実際にClHy処理によりPanc1細胞の一次繊毛は減少することが確認された。以上の結果は、一次繊毛の消失が膵管がん細胞の増殖に対して促進的に寄与することを示唆する。
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