ヒト膵管がんでは一次繊毛の消失が認められる。低頻度で一次繊毛を形成するヒト膵管がん由来Panc1細胞において、CRISPR/Cas9法を用いて一次繊毛形成に必要であることが知られている中心体タンパク質Cep164に変異を導入し、この細胞株(以後、Cep164-1細胞)では一次繊毛形成が著しく阻害されることを確認している。また前年までに、一次繊毛の消失に依存してCep164-1細胞の増殖が亢進することを見出していた。 Cep164-1細胞の性状をより詳しく調べたところ、フローサイトメトリー解析においてCep164-1細胞は野生型Panc1細胞と比べて、細胞周期のG1/G0期の割合が減少し、G2/M期の割合が増加することが分かった。また、細胞周期制御に関わるサイクリンとCDKの発現レベルを調べた結果、Cep164-1細胞ではいくつかのサイクリンとCDKの発現量が上昇していることが分かった。さらに、この細胞周期異常とサイクリン、CDKの発現増加は、Cep164-1細胞に異所性Cep164を発現させたレスキュー細胞では認められなかった。これらの結果は、Cep164が一次繊毛形成制御とともに、サイクリン-CDKの制御を介して、膵管がん細胞の増殖に寄与することを示唆している。 また、Cep164-1細胞と逆に、一次繊毛が増加しているPanc1細胞の取得を試み、一次繊毛の形成を抑えるキネシンKif24に変異を入れたPanc1細胞を樹立した。この細胞株では、野生型Panc1細胞と比べて一次繊毛を形成する細胞数が有意に増加することを見出している。
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