研究課題
本研究課題では、病原性細菌のプロトン輸送 ATPase について生理学的意義と駆動機構の解明、及び特異的な阻害化合物の探索を目的に研究を行っている。Streptococcus anginosus は、口腔内や消化器などの組織で増殖し、膿瘍の形成することで歯周病やガンの形成に関与することが示唆されている。同菌は、高い耐酸性を有しており、F 型プロトン輸送 ATPase が関与していることが阻害剤を用いた解析から示唆された。しかし、S. anginosus は、類似した構造を有する A (V) 型プロトン輸送 ATPase も有するため、F 型に対する阻害剤が A 型にも作用した可能性も考えられた。そこで今年度は、F 型 ATPase の遺伝子欠損株を作製し、その表現型を評価した。F 型 ATPase のβサブユニットを欠損した S. anginosus は、野生株と比較して pH7.3 では増殖に弱い影響しか見られないが、pH5.3で増殖が抑制された。さらに、pHを 4.3 に低下させた培地で欠損株は生存率が大きく低下した。これらの結果は、F 型 ATPase 阻害剤の作用と一致した。以上から、S. anginosus において F-ATPase は、プロトンの排出により酸性環境での増殖、及び耐酸性に関与していると考えられる。現在、A 型 ATPase 欠損株の作製にも取り組んでおり、その表現型を評価することで新規抗菌薬の標的となる分子を同定できると考えている。
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J. Biochem.
巻: 169 ページ: 459-466
10.1093/jb/mvaa118