研究課題/領域番号 |
18K06631
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
松井 政則 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (50199741)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞傷害性T細胞 / HLAクラスI / 抗原提示 / 分子シャペロン / TAPBPR / 小胞体 / アジュバント |
研究実績の概要 |
細胞傷害性T細胞 (CTL) は、がん細胞を排除する上で極めて重要な役割を果たしている。CTLの誘導を理解するには、HLAクラスI (HLA-I)分子による抗原提示機構を研究する事が重要である。私は、わずか1個のアミノ酸置換のあるHLA-A2変異分子HLA-A2-H74Lが、自己ペプチドと結合するにもかかわらず抗原ペプチドとは結合できないためCTLへ抗原提示できないことを発見した。この現象は、小胞体内で、HLAクラスI分子に結合している自己ペプチドが抗原ペプチドと交換することができないためと考えられる。そしてそれには、分子シャペロンが関わっていると考えられるが、この未知の分子シャペロンを同定することが本研究の目的である。 実験計画に沿って、HLA-A2またはHLA-A2-H74Lを発現させた細胞株で免疫沈降を行い、SDS-PAGEの分離パターンの比較をした。その解析で見られた異なるタンパク質を質量分析したところ、すべてHLA-A2であり、分子シャペロンを同定することはできなかった。一方、最近、低親和性ペプチドから高親和性ペプチドへと置き換える新しい分子シャペロン、TAPBPRが発見された。その特性から、TAPBPRが、自己ペプチドから抗原ペプチドへの交換に関与する分子シャペロンである可能性が高いと考えられた。そこで、CRISPR/Cas9法で、HLA-A2を発現しているヒト細胞株のTAPBPRをノックアウトした細胞、C1R-A2-TAPBPR-KOを作製した。HLA-A2トランスジェニックマウスに、インフルエンザウイルスマトリックスタンパク質(FMP)を発現するアデノウイルスで免疫し、FMP特異的CTLを誘導した。このCTLが、インフルエンザウイルスを感染させて内在性にFMPを発現させたC1R-A2-TAPBPR-KO細胞を認識するかどうかを検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
最初は、当初の実験計画に従って、HLA-A2またはHLA-A2-H74Lを発現させた細胞株で免疫沈降を行い、SDS-PAGEの分離パターンの比較をした。異なるタンパク質のバンドがいくつか見られたため、質量分析にかけてタンパク質を同定したが、HLA-A2またはHLA-A2の一部のタンパク質だということがわかり、求めようとしている分子シャペロンではなかった。その後、タイムリーにも、低親和性ペプチドから高親和性ペプチドへと置き換える新しい分子シャペロン、TAPBPR (Science 358:1060 & 1064, 2017) が発見された。その特性が類似しているため、TAPBPRを解析してみることにした。まず、GFP融合TAPBPR遺伝子をC1R-A2およびC1R-A2-H74Lに発現させ抗GFP抗体で免疫沈降を行い、その分離パターンを比較し質量分析したが、分子シャペロンは検出できなかった。そこで、CRISPR/Cas9法で、C1R-A2細胞のTAPBPRをノックアウトしたC1R-A2-TAPBPR-KO細胞を作製し、C1R-A2-H74L細胞と比較検討することにした。試行錯誤の末、ようやくC1R-A2-TAPBPR-KOクローンを複数作製することに成功した。これを使用して、抗原特異的CTLが、内在性抗原を発現するC1R-A2-TAPBPR-KO細胞を認識するかどうかを解析することにした。しかし、新型コロナの状況下で実験を行える時間が大幅に削減されたこと、また新型コロナウイルスに対するワクチン開発の研究を開始したことが原因で、解析が遅れている。そのため、もう1年間、本研究の期間延長を申請し、承認された。
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今後の研究の推進方策 |
CRISPR/Cas9法でTAPBPRをノックアウトした、HLA-A2を発現しているヒト細胞株、C1R-A2-TAPBPR-KOを利用して、C1R-A2 およびC1R-A2-H74L細胞と比較検討する。まず、C1R-A2-TAPBPR-KO細胞で、HLA-A2の細胞表面での発現量を解析する。細胞表面の発現が変わらなければ、自己抗原が小胞体内で正常にプロセッシングされHLA-A2に結合していることがわかる。そして、CTLが内在性抗原を発現させたC1R-A2-TAPBPR-KO細胞を認識できるかどうかを検討する。抗原としては、さまざまな基礎データを持っているため、インフルエンザAウイルスを使用する。C1R-A2-TAPBPR-KO、C1R-A2 およびC1R-A2-H74L細胞に内在性抗原を発現させるために、in vitroで、これらの細胞にインフルエンザAウイルスを感染させてインフルエンザウイルスマトリックスタンパク質(FMP)を発現させる。そして、HLA-A2トランスジェニックマウスに、FMPを発現するアデノウイルスで免疫し、FMP特異的CTLを誘導する。このCTLが、インフルエンザウイルスを感染させて内在性にFMPを発現させたC1R-A2-TAPBPR-KO細胞を認識するかどうか、C1R-A2 およびC1R-A2-H74Lとの違いはあるか、内在性抗原と外部から加えたペプチドで反応性の差はあるか等を解析、検討する。また、in vivoでの抗原提示能を測定するため、マウス腫瘍細胞株にHLA-A2または、HLA-A2H74Lを発現させ、HLA-A2トランスジェニックマウスに移植し、生体内のCTLが腫瘍細胞を排除するかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
<次年度使用額が生じた理由> 新型コロナウイルスパンデミックに対する対応において、研究室で実験を行う時間がずいぶん削減されたこと、および、新型コロナウイルスに対するワクチン開発の研究を新たに開始したことで、本実験に十分時間を割くことができなかったため、次年度使用が生じた。また、予想以上に、CRISPR/Cas9法を使って作製したC1R-A2-TAPBPR-KO細胞が、TAPBPRがノックアウトされているのを確認するのに時間がかかった。そのために、もう1年間、本研究の期間延長を申請して承認された。 <次年度使用額と当該年度助成金を合わせた使用計画> 次年度使用額の使用計画としては、実験に使用するHLA-A2トランスジェニックマウスの繁殖・維持費用や免疫のために使用する組換えアデノウイルス調整の費用に使用する。また、TAPBPR-KO細胞を解析することにおいて、in vitroおよびin vivoなどでさまざまなアッセイを行うため、遺伝子工学費用、細胞培養費用、各種抗体の費用等が必要であり、これらのさまざまな実験材料購入に使用する。
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