昨年度は、新型コロナパンデミックによって研究室で実験を行う時間がかなり削減されたため、本研究の期間延長を申請した。今年度はその延長年度であり、また最終年度である。 本研究では、わずか1個のアミノ酸置換のあるHLA-A2変異分子HLA-A2-H74Lが、自己ペプチドと結合するにもかかわらず抗原ペプチドとは結合できないため、細胞傷害性T細胞 (CTL) へ抗原提示できない現象を解析した。この現象は、小胞体内で、HLAクラスI分子に結合している自己ペプチドが抗原ペプチドと交換することができないためと考えられ、それには分子シャペロンが関わっていると思われる。この未知の分子シャペロンを同定すること、またそれを応用したワクチン開発の基礎データを得ることが本研究の目的である。 昨年度までに、HLA-A2またはHLA-A2-H74Lを発現させた細胞株で免疫沈降を行い、SDS-PAGEの分離パターンを比較して質量分析を行った。しかし、分子シャペロンを同定することはできなかった。その当時、新しい分子シャペロン、TAPBPRがScience誌に発表された。その特性から、問題の分子シャペロンがTAPBPRである可能性が高いと考えた。そこで、CRISPR/Cas9法でTAPBPRをノックアウトしたヒト細胞株を作製した。今年度は、その細胞株の抗原提示能が若干ながら低下していることを明らかにし、HLA-A2-H74Lが抗原提示できないのは、一つのアミノ酸置換 (H74L)によってTAPBPRとの相互作用ができないことが原因であるということが示唆された。また、今回の基礎研究の応用として、新型コロナウイルス、SARS-CoV-2の非構造タンパク質に対する、HLA-A2およびHLA-A24拘束性CTLエピトープを同定した。
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