敗血症は極めて予後不良の疾患であるが決定的な治療法がなく、治療薬開発に新規アプローチが求められている。敗血症の病態改善のためには、全身性炎症反応症候群だけでなく免疫抑制からなる代償性抗炎症性反応症候群も同時に制御する必要がある。本研究に先立ち、これまで炎症反応を惹起・増幅するとされてきたポリリン酸を低用量で投与するとマウスLPSモデルで顕著な救命効果を示すことを掴んだ。この一見矛盾する作用の機序解明が、敗血症病態で生じる正負の反応を制御するための重要な情報提供に繋がるものと考えた。そこで本研究は、ポリリン酸の敗血症モデル救命効果の分子機構を明らかにすることにより敗血症の新規治療法開発に繋がる基盤を整備することを目的とする。 本研究ではマウス盲腸結紮穿刺腹膜炎モデルを用いて、ポリリン酸の救命効果を検討した。その結果、LPSモデルの場合と同様、腹膜炎モデルにおいても平均重合度150のポリリン酸(0.1 mmol/kg)は顕著な延命効果を示した。また、その効果はポリリン酸の投与回数依存的に出現した。従って、ポリリン酸は異なる敗血症モデルで有効であることが明らかになった。 腹膜炎モデルにおいて、ポリリン酸は肺の重量増加とEvance blueの漏出をほぼ完全に抑制したことから、炎症による血管内皮細胞の機能変化抑制が臓器障害保護に関連することが示唆された。そこで、ヒト血管内皮由来HMEC-1細胞を用いてポリリン酸の作用点の解析を行ったところ、炎症性サイトカインTNF-αで生じる単球細胞の接着をポリリン酸が阻害した。またポリリン酸は、HMEC-1細胞におけるTNF-αによる接着因子ICAM-1の発現誘導を抑制した。従って、ポリリン酸は炎症性サイトカインによるICAM-1誘導の抑制を介して血管内皮細胞の機能維持と臓器障害を回避することが延命効果に繋がっているものと推察された。
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