研究課題/領域番号 |
18K06634
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
荒田 洋一郎 帝京大学, 薬学部, 教授 (90246017)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ガレクチン-2 / ムチン / MUC5AC / ガレクチン / 糖鎖 / 胃 |
研究実績の概要 |
胃粘膜上皮細胞によって産生される粘液中のムチンは、胃粘膜保護に重要な役割をもつ糖タンパク質である。ガレクチンは、β-ガラクトシドをもつ糖鎖構造を特異的に認識する動物レクチンであるが、このうち胃で高発現するガレクチン-2(Gal-2)が、ムチン分子上の糖鎖に結合してムチンを架橋し、複合体を形成することが最近明らかとなった。ムチンは多数の糖鎖が付加された糖タンパク質で、ゲルを形成し、胃酸やペプシン、侵入病原菌などから胃粘膜を保護する重要な防御因子であるが、防御作用の分子メカニズムについては不明な点も多い。胃で分泌される主要なムチンの一つがMUC5ACである。ムチンのポリペプチド鎖には多数の糖鎖が付加していることから、Gal-2の2量体が胃粘液においてMUC5ACの糖鎖部分を認識して架橋し、格子状構造を形成することで、胃粘膜保護効果を高めていると示唆されている。本研究では、胃粘膜において、Gal-2がムチンMUC5ACを架橋して複合体を形成することを示し、ムチンの胃粘膜保護におけるGal-2の役割の分子基盤を提示することを目的としている。 これまでに、マウスの胃粘膜から単離した胃粘液画分をLC/MS/MSで解析したところ、Gal-2とMUC5ACがスコア値が高いものとして同定され、ウエスタンブロットでも両者が確認できた。胃粘液画分にラクトースを共存させるとGal-2が可溶性画分に溶出することが見出された。さらに、ラクトースによる可溶化後の残存画分にはMUC5ACが存在し、添加した組換え体Gal-2が残存画分に結合することも明らかとなった。現在、Gal-2とMUC5ACとの相互作用についてさらに解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの胃粘膜から単離した胃粘液画分を、ラクトースを用いて可溶化すると、可溶性画分にGal-2が溶出され、残存画分にMUC5ACが残ることが明らかになった。さらに組換え体Gal-2を添加すると、おそらくMUC5ACを介して残存画分に結合することも明らかとなった。この結合はラクトースでは阻害され、スクロースでは阻害が見られないことから、MUC5AC上のβ-ガラクトシド構造を介した架橋反応が形成されていることが強く示唆された。これらの結果から、胃粘膜においてGal-2とMUC5ACが糖鎖を介して架橋構造を形成し、胃粘膜の保護効果向上に貢献していることを明らかにするための重要な結果が得られたと考えている。関与するMUC5ACの糖鎖構造の解析についてはやや遅れているものの、研究計画の1年目として概ね順調であると判断している。現在、Gal-2とMUC5ACとの相互作用についてさらに解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
Gal-2とMUC5ACとの相互作用について、関与するMUC5AC上の糖鎖についての情報も得るべく引き続き解析を進める。タンパク質中のシステイン残基にNOが転移されるS-ニトロソ化は、翻訳後修飾の一つで、マウス胃内における主要なS-ニトロソ化基質としてGal-2が同定され、Gal-2がS-ニトロソ化されると、過酸化水素による酸化的失活からGal-2が保護されることが既に明らかになっている。そこで、酸化ストレス下でのGal-2とMUC5ACの相互作用について試験管内での実験も進め、このとき、組換え体のGal-2に対するS-ニトロソ化の影響も解析する。さらに、胃粘膜中でのGal-2およびMUC5ACの局在についても、免疫組織染色により解析を進め、胃粘膜保護におけるGal-2とMUC5ACの役割についても考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目にGal-2組換えタンパク質を用いた実験を主体として行い、2年目以降の準備に用いる予定だった費用の使用が若干遅れたため、また、1年目の研究成果の論文投稿が予定より準備に時間がかかり、英文校正や投稿料として予定していた金額を1年目の年度内に使用しなかったため、若干の次年度使用額が生じた。いずれも2年目の早い段階で使用する予定である。
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