研究課題
ガレクチンはβ-ガラクトシド構造に親和性をもつ動物レクチンの一種である。ガレクチン-2(Gal-2)は主に胃腸内に発現しており、胃粘膜保護に関与する可能性が考えられている。ムチンは多数の糖鎖が付加された糖タンパク質で、ゲルを形成し、胃酸やペプシン、侵入病原菌などから胃粘膜を保護する重要な防御因子である。マウスの胃粘膜から単離した胃粘液を含む画分を、ラクトースを用いて可溶化すると、可溶性画分にGal-2が溶出され、残存画分にMUC5ACが残ることが明らかになった。さらに組換え体Gal-2を添加すると、おそらくMUC5ACを介して残存画分に結合することも明らかとなった。この結合はラクトースでは阻害され、スクロースでは阻害が見られないことから、Gal-2がMUC5AC上のβ-ガラクトシド構造を介して架橋を形成し、胃粘膜保護効果を高めていると示唆されている。本年度は、胃内の酸化的な環境での活性について解析をさらに進め、Gal-2が糖鎖と複合体を形成することがその活性維持に重要であることが示唆された。また、Gal-2の各変異導入組換えタンパク質に緑色蛍光タンパク質(GFP)を付加したものの調製を進め、Gal-2およびそのリガンドのマウスの胃粘膜上での発現部位を、免疫組織化学染色とレクチン染色の両方で解析する準備を整えた。現在、Gal-2とMUC5ACの相互作用や発現部位についてのさらなる解析を進めている。
3: やや遅れている
本年度は、胃内などの酸化的な環境におけるGal-2の活性維持について解析をさらに進めた。ガレクチン-2はβストランドが豊富な構造をもち、特徴的なCDスペクトルを示す。また、Gal-2は哺乳類間で高度に保存された2つのCys残基、Cys57とCys75をもつ。Gal-2を過酸化水素で処理するとCys57とCys75の両残基が酸化され糖結合活性が失われるが、あらかじめGal-2をS-ニトロソ化しておくと過酸化水素処理後も糖結合活性は保持される。様々な処理後のCDスペクトルを比較したところ、Cys残基がS-ニトロソ化修飾されていると過酸化水素による酸化的失活からGal-2が保護されるのと同様、ラクトース共存下では、S-ニトロソ化修飾をしなくても過酸化水素処理後にβストランドに特徴的なスペクトルが維持された。粘液中のGal-2は特異的な糖鎖をもつリガンドと相互作用することで、酸化的な環境であってもその活性を維持できることが示唆された。この結果を組織化学的に確認するため、2つのCys残基の一方または両方に変異を導入したGal-2にさらに緑色蛍光タンパク質(GFP)を付加した組換えタンパク質の調製を進めた。マウスの胃の組織切片を用いた免疫組織化学染色、およびレクチン染色により、Gal-2およびMUC5AC、さらにはそれ以外のGal-2のリガンドとなる糖タンパク質等の局在についての解析を研究計画3年目に開始する予定である。これらの組換体の構築の準備に想定より時間を要したため、研究計画の2年目としてやや遅れてはいるが、最終年度で、Gal-2、および、MUC5ACを含むリガンド分子の局在部位の詳細や両分子間の相互作用についてさらに解析を進める予定である。
Gal-2とMUC5ACとの相互作用、およびGal-2のS-ニトロソ化がもたらす胃粘膜保護作用の分子メカニズムについて、引き続き解析を進める。Gal-2とMUC5AC両分子の局在部位についての組織化学的解析は、Gal-2、MUC5ACに対する抗体に加えて、様々な分子マーカーやMUC5AC以外のMUC分子に対する抗体を用いた免疫組織化学的解析とともに、変異を導入したGal-2(および野生型Gal-2)をGFPで標識した組換体を用いたレクチン染色によるリガンドの局在解析も行う予定である。さらに、培養細胞を用いた解析を計画している。
1年目に英文校正や投稿料として予定していた金額を2年目(2019年度)に遅れて使用したが、それ以外はほぼ予定通り使用した。若干の次年度使用額が生じているが、計画最終年度の3年目内に当初予算と合わせて使用の予定である。
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